ワイヤレス給電とは?活用メリットや原理、種類、効率について解説

      電線(ワイヤ)を使わずに電力を送るワイヤレス給電技術は、電力を必要とするさまざまな機器と人とのかかわりを大きく変える可能性を秘めているため、注目を集めています。大きくわけて5種類あるワイヤレス給電方式は、それぞれで原理や効率、活用メリットが異なります。
      この記事では、ワイヤレス給電の原理と種類、近未来の応用例である宇宙太陽光発電について詳しく解説していきます。(公開日:2021/11/12 更新日:2024/03/19)

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      1. ワイヤレス給電とは?活用メリットは?

      ワイヤレス給電とは、電線(ワイヤ)を使わずに電力を送る技術です。
      下の図にあるとおり、1次電力(電源などからの電力)を送信アンテナから空間を隔てて送り、それを受信アンテナで受け取って実際に使用します。

      (画像出典:東海大学工学部 電子工学科 森本研究室『ワイヤレス給電システムとは』)
      (画像出典:東海大学工学部 電子工学科 森本研究室『ワイヤレス給電システムとは』)

      ワイヤレス給電技術は、大きな活用メリットがあるため注目を集めています。

      たとえば、スマートフォン(スマホ)のバッテリーの持ちの悪さに煩わしさを感じる人は多いのではないでしょうか?スマホを長時間使用するためには、頻繁に充電したりモバイルバッテリーを持ち歩いたりがどうしても必要です。

      しかし、この煩わしさが、ワイヤレス給電技術の発展によって解消されるかもしれません。利用者が意識することなくスマホに電気エネルギーをもらえる技術が開発される可能性があるからです。

      現在でも、近距離のワイヤレス給電技術を利用した、非接触型のスマホ充電器が普及してはいます。しかし、より遠距離のワイヤレス給電技術が実用化されれば充電器は不要となり、街中を歩いているときにスマホが自動的に充電される、などということも実現されるかもしれません。

      また、これから普及が見込まれる電気自動車も、充電は大きな課題です。道路を走行中に自動的に充電されれば、電気自動車はどんなに便利になるでしょうか。

      そのほかにも、家電や建物、日用品などさまざまなものに組みこまれ、センサーで位置や状態を認識するとともにインターネットで通信するIoT(Internet of Things:モノのインターネット)も、電気回路である以上やはり電力が必要です。これらの機器へのワイヤレス給電が可能になれば、利便性は大きく高まることでしょう。

      さらには、24時間365日、太陽光を受け続けることができる静止衛星軌道において、太陽のエネルギーを集約し、地上にワイヤレスで送って発電する宇宙太陽光発電も現在研究が進んでいます。

      以上のように、ワイヤレス給電は大きな可能性を秘めているため、「パワーエレクトロニクス分野の最後のフロンティア」と目されるほど大変な注目を集めています。

      2. ワイヤレス給電の種類と原理

      ワイヤレス給電の方式には、以下の5種類があります。

      • 電磁誘導方式(従来型)
      • 電磁誘導方式(磁界共鳴型)
      • 電界結合方式
      • 電磁波方式(マイクロ波)
      • 電磁波方式(レーザ)

      それぞれの原理を以下で見ていきましょう。

      2-1. 電磁誘導方式(従来型)

      電磁誘導方式のワイヤレス給電は、19世紀に活躍したイギリスの化学者・物理学者マイケル・ファラデーによって発見された、「電磁誘導の法則」を利用したものです。

      電磁誘導の法則とは、コイルなどのループ状の導線に磁束(磁界の強さと方向を示す線の束)を通すと、磁束の変化の度合いに応じた電流(誘導電流)がコイルに流れるというものです。磁束は、コイルに電流を流すことにより発生させられる(右ねじの法則)ため、2つのコイルを利用して電力を伝えられることになります。

      電磁誘導方式(従来型)のワイヤレス給電システムは下図のような構成になります。

      電力を送る側の1次コイルには、交流電源を接続します。交流は電流・電圧が周期的に変化するため、それによって発生する磁束も周期的に変化します。
      発生した磁束が2次コイルのなかを通ると、磁束の変化に応じた電流が2次コイルに発生します。従って、この電磁誘導型のワイヤレス給電方式は、1次コイルから2次コイルへ磁束を通じて電力を送っていることになります。

      ただし、この電磁誘導方式(従来型)のワイヤレス給電システムには、2つのコイルの距離が離れると、効率が大幅に低下してしまうという欠点があります。
      下図のように、1次コイルから出た磁束は、コイルからの距離が離れるにつれて広がるため、2次コイルのなかに入らない「漏れ磁束」が多くなってしまうからです。

      効率を改善するための方法は種々ありますが、上のようなシンプルなシステムでは、コイルの直径程度の距離が離れるだけで、最適化した場合でも効率は10%程度以下にしかなりません。
      電磁誘導方式ワイヤレス給電技術については、2010年に「Qi(チー)規格」が、ワイヤレス給電技術に関する業界団体「Wireless Power Consortium(WPC)」により策定されました。このQi規格により、それまでは各メーカーが独自開発していたため相互利用できなかったワイヤレス給電技術が、メーカーを気にせず利用できるようになりました。
      現在では、多くのメーカーのスマホなど電子機器にQi規格の充電機能が備えられるようになっています。

      2-2. 電磁誘導方式(磁界共鳴型)

      磁界共鳴型のワイヤレス給電方式は、上述した従来型の効率に関する欠点を大幅に改善したものです。2007年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のマリン・ソーリャチッチ教授らから論文が発表され、大きな話題になりました。
      MITのグループは、下図のようなシステムを考案しました。

      このシステムでは、同じ共振周波数をもつ2つのコイル、すなわち送電コイルと受電コイルのあいだで起こる磁界の共鳴を利用しています。
      送電コイルが発生させる磁界のなかに受電コイルが置かれると、受電コイルが共振して新たな磁界を発生させ、その磁界が今度は送電コイルの共振を励起して...、というように、送電・受電コイルが互いに磁界をキャッチボールしながら共振を強め合い、強い結合状態(共鳴)が生み出されるのです。

      このシステムを使用して、MITのグループは直径約60cmのコイルから、2m離れたところに電力を伝送し、60Wの電球を点灯させることに成功しました。効率の実測結果は約50%にもなりました。

      2-3. 電界結合方式

      電界結合方式のワイヤレス給電は、静電容量結合を利用したものです。
      電界と磁界は性質がよく似たところがあります。上でみた電磁誘導現象が磁界によって電流が誘導されるのに対応し、電界によって電圧が励起される現象が静電容量結合です。

      静電容量結合とは、2枚の相対した電極の片方に電流を流しこんで正電荷を注入すると、その正電荷に引き寄せられて、もう一方の電極に負電荷が集まるというものです。そのため見かけ上、負電荷の動きと逆の方向に電流が流れることになります。

      この静電容量結合の利用により、2枚の距離の離れた電極間で電力を送ることが可能となります。
      電界結合方式ワイヤレス給電のシステム構成は下図のようになります。

      一定の距離を離して置いた2枚の電極の対を2組用意します。2組の電極対それぞれの片側の電極に交流電源、もう片側に負荷である白熱電球を接続すれば、電極間の静電容量結合により電力が伝えられ、白熱電球が点灯します。

      電界結合方式は電磁誘導方式と比較して、比較的安価で軽量なワイヤレス給電システムが実現できると期待されています。電磁誘導方式で必要となる大電流を低損失で流すための高価な導線や、強い磁束を作るための高価で重い磁性体などが必要とされないからです。

      ただし、磁界の伝わり方を決める透磁率に比べて、電界の伝わり方を決める誘電率が5桁も小さい値であるため、電界結合方式は比較的長距離のワイヤレス給電には向かず、送電パット上に受電機器を置くなどの、ごく近距離で使うケースに向いていると見られています。

      2-4. 電磁波方式(マイクロ波、レーザ)

      電磁波方式は、ワイヤレス給電を遠距離間で行うための技術です。使用される電磁波は、マイクロ波(=電波)とレーザ光の2種類があります。

      上で見てきた電磁誘導方式と電界結合方式は、比較的近距離でないと給電できません。電磁誘導方式の改良版である磁気共鳴型でも、コイルの直径程度より遠い場所では伝送効率が低下します。
      従って、たとえば部屋のなかの数メートルという範囲内であっても、電力を送るためには直径1m~2mなどの大きなアンテナが必要です。実際に、そのようなアンテナを壁や床に埋めこんだり、貼りつけたりするというアイディアも提案されています。

      しかし、数メートルよりもっと遠方に電力を伝送したいというニーズも存在します。たとえば、静止衛星に搭載した太陽光発電装置で、24時間365日、地球の昼夜に左右されず高効率で発電した電力を地球に伝送する宇宙太陽光発電では、36,000kmの距離でのワイヤレス給電が必要です。

      この例において電磁波方式ワイヤレス給電システムでは、まず衛星に搭載された太陽電池によって発電された電力を使い、発振器によって高周波電流を作り、それをアンテナから電磁波として放出します。次に、地上の受信アンテナ(レクテナ)でその電磁波を受け取り、バッテリーへの蓄電などを行います。
      電磁波方式による長距離ワイヤレス給電は、宇宙太陽光発電のほかにも被災地や離島、山岳地、海底など、ケーブルを敷設できないところへの電力伝送を実現するものとして、技術開発が期待されています。

      3. ワイヤレス給電の近未来 ~宇宙太陽光発電

      ここでは、ワイヤレス給電の近未来における応用例として、近年研究が進んでいる宇宙太陽光発電技術について詳しく見ていきます。

      3-1. 宇宙太陽光発電技術とは

      宇宙太陽光発電技術とは、前述のとおり上空36,000kmの静止衛星軌道上で太陽のエネルギーを集約し、そのエネルギーを地上にレーザやマイクロ波で送り届けて、地上で電力などのエネルギーに変換する技術です。

      静止衛星軌道上では、地球の大気によるエネルギーの吸収・散乱、天候や季節、日照時間の影響を受けないため、地上と比較して単位面積あたり約10倍のエネルギーを安定して受けられます。また宇宙から地上へは地球の大気によるエネルギーの吸収・散乱の影響を受けにくい伝送方法が検討されています。
      実用化が実現すれば、化石燃料に頼らないクリーンで無尽蔵なエネルギーを利用できることになります。

      3-2. マイクロ波とレーザ光の長所と短所

      宇宙太陽光発電技術の研究は、電力伝送のための電磁波として、マイクロ波とレーザ光の2種類について進められています。前述のとおりレーザ光も電磁波の一種であり、その波長がマイクロ波と比較して3~4桁ほど短いことが特徴です。

      宇宙太陽光発電技術に使用されるマイクロ波とレーザ光の、それぞれの長所と短所は下表のとおりとされています。

        マイクロ波の特徴 レーザー光の特徴
      長所 ●最適な周波数を選択することで雲や雨の影響を殆ど受けず、天候に左右されない。 ●波長が短いため、装置やシステムを比較的小型化しやすい。
      ●地上の太陽光発電設備をそのまま受光サイトとして活用できる可能性がある。
      短所 ●マイクロ波はレーザー光と比較して波長が長いため、宇宙側、地上側共に大規模なシステムとなる。 ●雲・雨・大気の影響を受けやすい。
      ●人(眼)へのダメージを避けるため、十分な安全配慮が必要。

      (出典:JAXA研究開発部門『SSPSに関してよくある質問(FAQ)』「研究開発の対象をマイクロ波とレーザー光のどちらか一方に絞り込むことはしないのですか?」)

      3-3. マイクロ波による宇宙太陽光発電技術

      マイクロ波による宇宙太陽光発電技術においては、送電アンテナとして、非常に多くのアンテナ素子で構成される「アレイアンテナ」が用いられます。各アンテナ素子からマイクロ波を放射するタイミングなどを制御し、空間で合成することで、任意のビーム形状を形成し、それを任意の方向に向けて放射できます。

      ただし、このアレイアンテナは「km級」の巨大なものとなるために、構造的に完全な平面を保つのは困難です。そのような条件下で、地上の特定の地点にある受電アンテナに送電するために必要な方向制御の精度「0.001度」を実現するため、ビーム方向の高精度な電気的補正制御技術も併せて研究が進められています。

      3-4. レーザ光による宇宙太陽光発電技術

      レーザ光による宇宙太陽光発電技術においては、太陽電池で発電された電力でレーザ発振を行う従来の方法だけでなく、太陽光を特殊な結晶に直接照射してレーザを励起させる、高効率なレーザ発振システムも研究が進んでいます。

      また、レーザ光を地上のターゲットへ正確に照射するため、ビームの広がりが少ないベッセルビームなどの非回折ビームや、大気を伝搬する光のゆらぎを取り除く「補償光学」などの活用についても検討が進められています。

      さらに、照射されたレーザ光を高効率でエネルギーに変換するため、レーザ光の特定の波長で高い変換効率をもつ太陽電池の研究や、レーザ光を太陽電池で直接電力へ変換するのではなく、水素やアンモニアなどの異なった形態でエネルギーを蓄え、それを使いたいときに電力に変える方法の研究も進んでいます。

      4. まとめ

      • ワイヤレス給電とは、電線(ワイヤ)を使わずに電力を送る技術のこと。大きな活用メリットがあるため注目を集めている。
      • ワイヤレス給電の方式は、電磁誘導方式(従来型)、電磁誘導方式(磁界共鳴型)、電界結合方式、電磁波方式(マイクロ波)、電磁波方式(レーザ)の5種類で、それぞれで原理や効率、活用メリットは異なる。
      • ワイヤレス給電の近未来の応用例「宇宙太陽光発電技術」も、マイクロ波方式とレーザ方式の両面から研究が進められている。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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