周波数の高いテラヘルツ(THz)波帯(100 GHz ~ 10 THz)は、「光」と「ミリ波」に挟まれた領域に存在しており、双方の特徴を併せ持っています。このため、光のような広帯域性を利用して毎秒100ギガビットを超える超高速無線伝送や、ミリ波のような透過力を利用した電離作用のない安全はイメージングといったセキュリティなどへの応用が期待されています。しかし、THz波帯では、簡易な発生技術、高感度な検出技術がなく、その利用が限られておりました。我々は、NTTの通信ネットワークの大容量化とともに発達してきた超高速電子デバイス技術を利用して、THz波帯で動作する集積回路(IC)、機能モジュールを実現し、THz波帯の利用を促進し新たなサービス実現に寄与するための研究を進めています。
THz波帯の広帯域性を利用した、超高速近接無線への応用例を説明します。THz波帯のなかでも、信号が空気中を伝搬する際の減衰が少ない300 GHz帯を用いて、高データレート(毎秒10 ギガビット以上)の無線通信を、電子回路(IC)技術により実現することを目標としています。
THz波帯の信号をICで取り扱う場合には、周波数が高いためIC内配線での伝搬損失が大きい、データレートが高いため波形が歪やすいなどの課題があります。このため、THz波帯で動作するICやモジュールには、低損失、高出力、平坦な群遅延等の特性が重要となります。
300 GHz帯を用いた超高速近接無線システムのための、無線用ICを設計、小型導波管モジュール化を行いました。図2に試作したICのチップ写真を示します。本ICには、無線通信の送信部に必要となる変調器とパワーアンプが一体集積されています。アンプの多並列化による高出力化や配線の低損失化、分布型変調器による高データレート化を行いました。また、モジュール化では配線と導波管接続部の低損失化、広帯域化を行いました。このモジュールを用いて、毎秒20ギガビットの高速動作を確認しました。(図3)
THz波帯を用いた超高速無線アプリケーションとして、大容量データを設置端末よりスマートフォンなどのモバイル端末に瞬時に取り出すための近接無線(図4)や、データセンタ内の光ファイバの無線化、装置内のボード間接続の無線化などの標準化が議論されています[1]。また、透過力を活かしたイメージングのアプリケーションとして、空港でのセキュリティ検査、煙・粉じん・雪等の中でのイメージングなど、安心、安全のための技術としての利用が期待されています。これらのアプリケーションのためのキーデバイスとして、IC、小型モジュール実現を目指して研究開発を進めていきます。
本研究の一部は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の一環として実施された。
[1] IEEE 802.15.3d “Applications Requirements Document” (Doc Number 14/0304r16) https://mentor.ieee.org/802.15/documents