プラズマとは?その特徴と未来の産業への応用をわかりやすく解説
メイン画像:プラズマボールのイメージ図
透明なガラス球にネオン、アルゴンなどの希ガスを封入した器具。ガラス球の中心の電極に電圧をかけることで、ガラス球のなかの気体が電離してプラズマが作られる。指でプラズマを動かして遊べることでも知られる。
プラズマとは、固体、液体、気体にならぶ「物質の第4の状態」です。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、実は私たちの身の回りから宇宙に至るまでさまざまなところに存在するプラズマは、生活に身近な蛍光灯や半導体製造技術、人工衛星のエンジンなどの活用例があり、将来における新たな発電技術としての応用も期待されています。
この記事では、プラズマがどのように私たちの日常生活や科学技術の進歩にかかわっているのか、そして社会の未来をどのように変える可能性を秘めているのかについて解説します。


1. プラズマとは何か
私たちが日常生活でよく目にする物質は3つの状態、すなわち固体、液体、気体のいずれかの状態で存在します。
一般的な物質は、温度が上がるとともに固体から液体、気体へと状態変化します。たとえば水は標準の大気圧において、0度以下の低温の状態では固体の氷に、0度から100度の間では液体の水に、100度以上の高温の状態では気体の水蒸気となります。
物質を構成する原子は、安定した状態では原子核とその周りを回っている電子によって構成されています。物質が非常に高温の状態になると、原子を構成する粒子一つひとつの運動エネルギーが増大し、原子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に電離します。電離によって生じたこれらの粒子は、電磁場と相互作用しながら高速で集団運動します。こうして生じる物質の状態をプラズマと呼んでいます。
一般に、プラズマは正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子で構成されます(以下、イオンとは正の電荷を持つイオンをさします)。

(画像出典:独自作成)
2. プラズマの役割
2-1. 私たちの身の回りにあるプラズマ
プラズマは物質の特殊な状態ですが、意外に身近な存在でもあります。たとえば、ろうそくの炎です。美しいろうそくの炎の一部では、ろうそくから出てくる炭素原子が燃焼によって高温状態で電離し、プラズマとなっています。
また、蛍光灯もプラズマを利用した身近な例だといえます。蛍光灯の内部には水銀ガスが入っており、フィラメントから発生させた電子を水銀原子に衝突させてその一部を電離させることで、イオンと電子が生じてプラズマになります。
さらに、蛍光灯内の水銀原子と電子の衝突により、エネルギーを受け取った水銀原子が励起状態に遷移します。この原子が基底状態に戻る際、余分なエネルギーとして放出する紫外線が蛍光塗料の原子(希土類元素)を励起し、その原子が基底状態に戻る際、紫外線よりもエネルギーの低い可視光が蛍光灯から放出されます。そして、蛍光塗料が赤、青、緑などの光を放出したものがおなじみの蛍光灯の白色光です。
2-2. 自然界のプラズマ
続いて、空に目を向けてみましょう。私たちが何気なく見ている自然現象にも、プラズマはあふれています。
たとえば、太陽はプラズマの塊です。太陽の表面温度は6,000度、中心温度は1,600万度の超高温状態になっており、また中心気圧は2,500億気圧の超高圧状態です。この超高温・超高圧状態において、物質はプラズマになっています。太陽から吹き出す巨大な紅炎「プロミネンス」もプラズマです。このような太陽のエネルギーは「核融合反応」によって生み出されています(3-1 「核融合発電への利用」で詳述)。

太陽からは、絶え間なくプラズマが噴出しています。これが「太陽風」と呼ばれるものです。太陽風は宇宙空間を超高速で移動し、地球などの惑星に影響をおよぼします。
地球を取り巻く「電離層」では、宇宙からの放射線などによって一部の大気がプラズマになっています。電離層は電波を反射する性質を持ち、遠洋の船舶通信、国際線航空機用の通信に利用されています。ただし、GPSなどの衛星通信を使う場合には、通信電波に揺らぎを与えることや遅延が問題となります。
そして、地球の極地に出現する幻想的な光「オーロラ」もプラズマの一例です。太陽風などの地球周辺のプラズマが地磁気の磁力線に沿って電離層に流れ込み、大気中の酸素や窒素に衝突して励起させます。励起された酸素や窒素の原子が基底状態に戻る際に発光する現象がオーロラです。

また、自然現象のなかで最も目にするプラズマは雷です。雷は、大気中の雲と地表面の間で発生した電位差が、電気を通さない空気(絶縁体)を「絶縁破壊」することで生じる現象です。このときの空気は電離していることから、プラズマであるといえます。
2-3. 産業界のプラズマ
プラズマは、産業界における新たな技術の開発にも役立てられています。ここでは、半導体製造におけるプラズマの利用について解説します。
現在の情報社会では、スマートフォンやパソコンなどの電子機器が欠かせません。これらの電子機器の心臓部にあるのは、半導体や集積回路のような電子部品です。電子部品は非常に微細な構造を持っているため、その製造工程においてプラズマが重要な役割を果たしています。

一般的に、半導体の製造工程では「リソグラフィー」という技術が使用されます。これは、集積回路のパターンを半導体の表面に転写する技術です。まず、フォトマスクという原版にコンピューターを用いて回路パターンを描画します。次に、配線やトランジスタになる薄膜をウェハ(シリコンでできた基板材料)上に作製し、フォトレジスト(感光剤)を塗布します。ここにフォトマスクの回路パターンをリソグラフィーによって転写します。
リソグラフィーでは、非常に微細なパターンを正確に転写することが求められるため、印刷に使用する光源の波長が鍵となります。使用する波長の光が短ければ短いほど、細かいパターンを精密に転写することが可能になります。これには、光の「回折」という現象がかかわっています。光は波の性質を持っているため、物体にぶつかることで拡散・回折します。このとき波長が長い光(可視光の赤色など)は、波長が短い光(極端紫外線など)よりも大きく回折する性質があります。したがって、微細なパターンを転写する場合は、波長が短い光の方が解像度は上がるのです。
そのため最近の半導体製造技術では、「極端紫外線(EUV)リソグラフィー」という波長が非常に短い光を使用する技術が注目されています。そして、このEUV光源にプラズマが使われています。
これらの例からもわかるように、プラズマは現代の電子機器製造における必要不可欠な要素であり、重要な役割を担っています。つまり、半導体産業におけるプラズマの応用は、今後の情報社会の発展を支える技術のひとつだといえます。
3. プラズマが生み出す未来産業
3-1. 核融合発電への利用
プラズマは、未来のエネルギー産業に革新をもたらす可能性を秘めています。そのひとつが核融合反応を利用した発電技術です。
核融合反応とは、水素などの軽い原子核同士が融合し、ヘリウムなどのより重い原子核ができる過程で非常に大きなエネルギーを放出する核反応をさします。このエネルギーは、核融合反応の前後における「質量欠損」によって生まれます。
重水素(D)と三重水素(T)による核融合、いわゆるDT核融合反応の場合について考えてみます。反応物質となる重水素と三重水素の原子核は、それぞれ1つの陽子と1つまたは2つの中性子を持っています。そして高温と高圧のもとでDとTの原子核が接近し、合体することで核融合反応が起きます。この結果として、ヘリウム原子核(2つの陽子と2つの中性子)と1つの中性子が生成されます。
反応前のDとTの質量の合計と、反応後のヘリウム原子核と中性子の質量の合計を比較すると、わずかに質量が減少しています。この差が「質量欠損」と呼ばれます。アインシュタインが提唱した、エネルギー(E)は質量(m)と光速(c)の2乗の積に相当(E=mc²)するという法則に従い、質量欠損はエネルギーとして放出されます。このエネルギーの放出が核融合反応の際に観測される巨大なエネルギーの源となります。


下図:巨大なエネルギーを生み出す「質量欠損」の図式化。核融合反応の前後で反応物質の合計質量は減少し、その減少分の質量は光や熱といったエネルギーとして放出される。
(画像出典:独自作成)
核融合反応は原子核同士の衝突で起こりますが、原子核(イオン)は正の電荷を持っているため、イオン同士はクーロン力で反発します。そのため、通常の状態では核融合反応は起きません。一方で、太陽内部は強大な重力によって高密度(地上の大気の1,000万倍)かつ高温(中心温度1,600万度)のプラズマ状態となっており、非常に高い圧力が生じています。その結果、太陽では核融合反応が生じています。私たちが毎日見上げる太陽の光は、まさに核融合反応によって生まれているのです。
核融合反応で生じるエネルギーを発電に利用する装置を核融合炉といいますが、地上では太陽のような重力を発生させることはできません。イオンや電子などの荷電粒子は磁場に巻き付いて運動することから、荷電粒子の集合体であるプラズマは磁場で閉じ込めることができます。そこで核融合炉のひとつの方式として、磁場を用いてプラズマを一定空間に閉じ込める方式の核融合炉が現在研究されています。
この方式で閉じ込めるプラズマの密度は、太陽中心の密度と比べて10の12乗分の1の大きさしかないので、さらにプラズマの温度を1億度以上に上げることで、プラズマを構成するイオンと電子が高速(1,000km毎秒以上)で動き回ることが可能となり、その結果、イオン同士が反発力に打ち勝って衝突し、核融合反応が生じます。
核融合発電の研究開発は世界中で行われており、核融合炉の実現のために現在、超大型国際プロジェクトである「ITER計画」が進行しています(ITERは、国際熱核融合実験炉を意味するInternational Thermonuclear Experimental Reactorの略語)。ITERの目標は、実際に発電を行う核融合炉と同じレベルの温度、密度などのプラズマを実現することです。すなわち、重水素と三重水素を用いて、大出力・長時間の燃焼を行うということです。

現在は、日本、EU、ロシア、米国、韓国、中国、インドの7極が協力し、フランスに世界最大の核融合実験炉を建設しています。 2035年には約50万キロワットの核融合出力の達成をめざす実験がはじまる予定です。
ITERでは、「トカマク」と呼ばれるプラズマ閉じ込め方式が採用されています。トカマクは電磁コイルに大電流(下図のa)を流して生じる強力な磁場(下図のb)とプラズマ自体の電流(下図のc)が作る磁場(下図のd)を用いて、ねじれた磁場(下図のe)を形成し、プラズマをドーナツ形状に閉じ込める方式です。

複数の磁場によってプラズマがドーナツ形状に閉じ込められる。
(画像出典:独自作成)
プラズマの位置や形状の制御は磁場の変化を通して行われますが、安定した制御方法はまだ確立していないことから、物理現象からプラズマの挙動を解析して状態を把握し、フィードバック制御をかける方法の研究が進められています。しかし、突然プラズマが不安定になった場合に制御が間に合わない可能性があります。そこでNTT宇宙環境エネルギー研究所では、AIおよび機械学習を活用して未来のプラズマ状態を高速で算出し、その結果に基づいてあらかじめ制御をかけることで、核融合プラズマを安定制御する研究を進めています。
核融合発電の利点は、燃料となる重水素が自然界に豊富に存在すること、二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物の排出がないこと、核分裂による原子力発電のような暴走の危険が原理的にないことが挙げられます。人口増加に伴うエネルギー需要の増大が喫緊の課題になると予測される今、核融合発電による持続可能なエネルギー供給の実現は、未来の地球を救うことにもつながる重要なテーマです。
3-2. 航空宇宙工学分野への応用
航空宇宙工学分野の領域でも、プラズマは重要な役割を果たしています。その一例が「プラズマエンジン」です。プラズマエンジンの原理は、推進剤を電離し、そこで生じたプラズマを電気的な力によって加速し、噴射することによって推力を得るというものです。
現在、地上からの打ち上げに使われる化学燃料に基づくロケットエンジンは推力が大きいですが、比推力(推進剤1kgが1秒間に消費されるときに発生する推力。ロケットの燃費に相当する)が小さく、長距離航行するためには大量の燃料を必要とする点で課題がありました。一方、プラズマエンジンは推力が小さいですが、比推力が高く、比較的少量の燃料で長時間の航行が可能です。
プラズマエンジンは、その長所から深宇宙探査や、より遠い惑星への人類の進出において、重要な役割を果たすことが期待されています。すでにいくつかの無人探査機ではプラズマエンジンが利用されており、将来的には有人宇宙飛行でも利用される可能性があります。現状、長寿命化や大推力化、高電力効率化などの課題があるため、より効果的な活用に向けて研究開発が進められています。
以上のように、プラズマは未来のエネルギー産業や航空宇宙工学の発展において重要な鍵を握っています。これからもプラズマがもたらす新たな可能性を追求することで、私たちの生活や社会はさらに進歩していくことでしょう。
4. まとめ
- 気体の温度を上げ続けると、やがて気体の構成粒子はイオンと電子に電離する。このような荷電粒子の集合体をプラズマと呼ぶ。プラズマは「物質の第4の状態」とも称される。
- プラズマは、太陽や雷、ろうそく、蛍光灯など、生活の身近なところで目にすることができる。また、半導体製造におけるプラズマの応用は、情報社会の発展を支える重要な技術である。
- 軽い原子核同士が融合し、より重い原子核ができる核反応(核融合反応)で生じるエネルギーを利用する発電方法を核融合発電と呼び、プラズマがその炉心として用いられる。
- NTT宇宙環境エネルギー研究所では、AIおよび機械学習を活用して未来のプラズマ状態を高速で算出し、予測結果に基づいてあらかじめ制御をかけることで核融合プラズマを安定制御する研究を進めている。
- 航空宇宙工学分野では、ロケットの推力として「プラズマエンジン」という新たな技術が用いられている。
参考文献
- JAXA『太陽風はどう作られるのか? ~金星探査機「あかつき」が明らかにした太陽風加速~』
- Journal of the Vacuum Society of Japan 56巻12号『真空中の放電現象―真空ギャップの絶縁破壊現象―』小林 信一
- NTT研究開発『核融合が「現実のエネルギー」になる日』
- 一般社団法人 プラズマ・核融合学会『たかがロウソク,されどロウソク―理科教育にも使える身近なプラズマー』藤田 順治
- 九州大学大学院 総合理工学府 地球環境理工学メジャー 宇宙流体環境学研究室『高密度高周波プラズマ源の開発』
- 群馬大学 理工学府 電子情報部門 情報通信システム分野 本島研究室『電波伝搬計測システムの構築』須貝 和浩
- 経済産業省『ITER(国際熱核融合実験炉)計画について』
- 公益社団法人 応用物理学会『大規模集積回路に欠かせないプラズマプロセス 電子温度・電子密度の3次元空間分布を計測』山下 雄也, et.al
- 公益社団法人 応用物理学会『レーザー生成プラズマ極端紫外光源の高出力・長寿命化技術』藤本 准一 溝口 計
- 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構『先進プラズマ研究開発』
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所『プラズマくんだより 2014年6月号(No.38)』
- 中央大学『教養番組「知の回廊」72「アークプラズマの研究と応用」』
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