赤潮とは?発生の仕組みと課題を解説

      赤潮とは、海水中の微生物(プランクトン)が異常発生することで水の色が変化する現象です。日本近海でたびたび発生しており、発生水域の生物に悪影響を与える場合もあります。四方を海に囲まれた日本は漁業国でもあることから、赤潮の影響は深刻な問題です。赤潮の原因は海の富栄養化にあるといわれており、私たちの人間活動の見直しを迫る、自然からの警告ともいえます。
      この記事では、赤潮の発生メカニズムや問題点、対策について解説します。(公開日:2022/09/22 更新日:2023/09/19)

      このオウンドメディアは、NTT宇宙環境エネルギー研究所がサポートしています。

      1. 赤潮とは?

      まずは赤潮が発生する機構、赤潮の種類などの基本情報について見ていきましょう。

      1-1. 赤潮の発生機構

      赤潮の発生機構はまだ正確には解明されていません。しかし赤潮は、赤潮の原因となる生物の生理・生態学的特徴と、発生する海域の環境が相互作用することにより、発生していると考えられています。

      たとえば沿岸海域で赤潮の発生に関係するプランクトンは珪藻類と鞭毛藻類だとする説があります。しかし、同じグループに所属していても、異なる生理・生態学的特徴を持つプランクトンも存在していることから、赤潮発生の機構解明をしようとする場合、プランクトンごとに特化したアプローチをとる必要があるとされています。

      また、海域の環境は、水温や塩分、光や潮流、栄養塩の濃度などの物理・化学的要因と、捕食者の有無などの生物学的要因によって説明されます。そして海域の環境は、平均的・静的なものではないため、場所によって複雑に変動しています。

      よって赤潮は、複雑な生理・生態学的特徴を持つプランクトンと、変動する海域の環境の相互作用によって発生していると推察されています。

      1-2. 赤潮の種類と呼び名

      赤潮には、その発生場所や色の違いからさまざまな種類と呼び名があります。赤潮は海で発生するイメージがありますが、淡水の湖沼で発生するものもあり、「淡水赤潮」と呼ばれています。また、生物の種類や密度によって色にも差があり「白潮」や「青潮」「緑潮」と呼ばれることもあります。

      緑色を呈する海水

      歴史上にも赤潮の存在は確認されており、たとえば旧約聖書『出エジプト記』には、「川の水はことごとく血に変わった。川の魚は死に、川は臭くなり、その水は飲めなかった」という赤潮の発生を思わせる一節があります。

      1-3. 赤潮はどのように発生するのか?

      まず赤潮の発生には、赤潮を発生させる生物の存在が必要になります。具体的には、珪藻・藍藻や鞭毛藻・鞭毛虫類、そして原生動物・甲殻類です。

      次に、発生源のプランクトンの急激な増殖が進みます。急激な増殖を可能にするのは、物理環境(水温、pH、塩分濃度など)が増殖にとって最適なものになること、栄養塩類(窒素、リンなど)の供給が行われることです。またこれらに加え、増殖を促進するビタミン類や重金属イオン類の存在も指摘されています。

      赤潮は、海水中の微生物が異常発生し集積することで起こります。プランクトンが集積するためには、海域における波や潮流といった環境的な「他律的要因」や、プランクトン自体が移動し集積する「自律的要因」が必要で、これらが協調することによって赤潮が発生するとされています。

      2. 赤潮の影響

      ひとたび赤潮が発生すると、漁業に大打撃を与えます。ここでは赤潮がもたらすさまざまな影響について解説します。

      2-1. 赤潮の原因となる「有害赤潮生物」とその被害

      赤潮が発生すると、周囲の地域で悪臭が発生するなどさまざまな被害が発生しますが、水産物は特に甚大な被害を受けます。

      養殖魚介類などに被害をもたらす赤潮の原因となる「有害赤潮生物」は、その大部分が微細藻類であり、代表格がラフィド藻と渦鞭毛藻です。なかでも最も大きな被害をもたらしてきたものとして、「ラフィド藻の一種シャットネラ(C.antiquaとC.marina の総称)」や「渦鞭毛藻のカレニア(K.mikimotoi)」「渦鞭毛藻の一種ヘテロカプサ(H.circularisquama)」が知られています。

      「せとうちネット 赤潮による漁業被害一覧」では、瀬戸内海付近の海域で1972年から2017年の間で発生した赤潮の被害額がまとめられています。それによると、1972年に播磨灘で発生した赤潮によって、養殖ハマチ約1,400万尾が死に、およそ71億円の被害が出たとされています。これは日本最大の赤潮被害ともいわれており、シャットネラによって引き起こされたものでした。この赤潮被害を受けて、漁業関係者は国および沿岸の工場を相手に「播磨灘赤潮訴訟」を起こしました。損害賠償は総額約19億円にのぼり、有害排水の差し止めを請求しました。

      また、ヘテロカプサによる1998年の赤潮は、広島湾の養殖カキに壊滅的な被害をもたらし、その被害額は約40億円にもおよんだとされています。 ヘテロカプサは東南アジアにルーツを持ち、アサリ、カキ、真珠貝などの二枚貝類のみを死滅させるという特徴があります。
      さらに、2004年に大阪湾と播磨灘で発生した珪藻類による赤潮では、養殖ノリの色落ちにより約58億円の被害が出ました。

      このように赤潮はひとたび発生すると、水産業に莫大な被害をもたらす可能性があるのです。

      2-2. 赤潮が魚類を死に至らしめる理由

      赤潮が発生すると海域の魚類が大量死し水産業に大打撃を与えることは、前項のとおりです。では、赤潮はどのように魚類を死に至らしめるのでしょうか?

      諸説ありますが、一般的には「中毒死」が有力な説とされています。プランクトンが有毒物質を保持している種の場合、その影響によって魚が中毒死するということです。また、ある種の赤潮を誘発するプランクトンに寄生するバクテリアが有毒物質を保持しているという説もあります。

      さらに、水中に大量のプランクトンが存在し、それらが魚のエラを覆ってしまうことで呼吸ができなくなるという「呼吸困難説」もあります。ほかにも、大量発生したプランクトンが一斉に枯死する際に酸素を大量に消費することで、水中の酸素が不足し魚を酸欠に陥れるという「酸欠説」もあります。

      赤潮がもたらす悪影響は、魚類だけに留まりません。汚染された魚介類を食べることで人間を含む陸上生物が中毒を引き起こすことも考えられるのです。

      3. 赤潮への対策

      次に、赤潮の駆除と予防、予測の試みについて解説していきます。

      3-1. 赤潮の駆除と予防

      これまでさまざまな手段で駆除対策が講じられてきましたが、実用的な方法はまだ模索段階です。

      赤潮の発生を予防するためには、海域の富栄養化を起こさない、または富栄養化を引き起こしている場合は減衰させるという手段を講じる必要があります。
      富栄養化の原因となる栄養塩(窒素・リンなど)の海域への流入を抑えるため、現在一定の効果を上げているのは、法的規制や廃水の浄化処理の改良および高度化です。
      また、養殖場のエサによって海域が汚染され、赤潮を引き起こす場合もあるため、汚染を起こしにくいものに代替していく対策も進められています。

      さらに赤潮の予防に関しては、有害赤潮生物である微細藻類を駆除する働きを持つ「殺藻細菌」が注目されています。赤潮の消滅と細菌の組成の関係を解明する研究によって、赤潮の末期から消滅過程で、殺藻細菌が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
      実験では、殺藻細菌「Alteromonas sp.S株(γ-プロテオバクテリアの一種)」が、「赤潮ラフィド藻シャットネラ」「赤潮渦鞭毛藻カレニア」および通常の珪藻「Ditylum brightwellii」の3種を、2〜3日という時間で殲滅したことが報告されています。

      これらの殺藻細菌はマクサやアオサなどの海藻表面に多数生息していることがわかり、マクサやアオサが茂る藻場では高密度で殺藻細菌が生息していることも報告されています。藻場は二酸化炭素を吸収するブルーカーボン生態系としても位置付けられており、赤潮予防に向けて殺藻細菌を海域に繁殖させるなどの予防対策が考えられています。

      様々な海藻

      3-2. 機械学習による赤潮予測

      赤潮の予測に関しては、さまざまな努力がなされてきました。たとえば、赤潮被害にみまわれる特定の海域では、水温やpH、塩分濃度が常時測定されていますが、赤潮発生の予測は困難という報告がされています。そのほかにも、水中の栄養塩の濃度を自動で定期的に測定し、赤潮発生を予測する研究や、赤潮を発生させるプランクトンの成長を促進するビタミン類や重金属の濃度を測定し、赤潮の予測に役立てようとする研究もあります。

      しかし近年、機械学習アルゴリズムを用いて沿岸海域の赤潮予測モデルを構築し、性能評価を行うといった方法が開発され、成果を上げています。既往の研究と整合する予測結果を出すことに成功し、機械学習による赤潮予測に有効であることが示されており、今後はより高性能なアルゴリズムを用いて赤潮予測モデルを向上させる研究が行われる予定です。

      3-3. 衛星IoTセンサで海洋の栄養塩の濃度をリアルタイムセンシング

      赤潮の予測に資するデータを提供する試みとして、衛星IoTセンサによる海洋の栄養塩の濃度をリアルタイムでセンシングする試みが進められています。陸地の付近では赤潮の予測につながるほか、海洋の内部の状態を詳細にセンシングすることで、漁獲高を向上させるデータが生み出せる可能性もあります。

      たとえば沖合の洋上には、栄養塩の空白地帯「シー・デザート」があるとされていますが、データがないためにその存在はよくわかっていません。衛星IoTセンサで海洋の中央などこれまではデータの入手が困難だったエリアの栄養塩の分布をリアルタイムに測れれば、近年不漁が続くサンマの分布や、鮭やイカの生態の解明につながる可能性があるでしょう。

      4. まとめ

      • 赤潮は、海水中の微生物(ラフィド藻や渦鞭毛藻と呼ばれる微細藻類)が異常発生することで、水の色が変化する現象。
      • 赤潮の原因のひとつは窒素・リンなど過度な栄養塩が海に流れ込むこと(海の富栄養化)と考えられている。
      • 海の富栄養化は、農業の農薬や肥料による土壌汚染、工業に関連する排出物などが原因だと考えられている。
      • 赤潮の水産業への被害は甚大で、国内最大の被害額は約71億円にのぼる。
      • 赤潮の予防策には海域の富栄養化の阻止、マクサやアオサなど海藻の表面に生息する殺藻細菌の繁殖などがある。
      • 機械学習を赤潮の予測に応用した研究がある。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

        Share

      このオウンドメディアは、NTT宇宙環境エネルギー研究所がサポートしています。

      NTT宇宙環境エネルギー研究所のサイトへ

      NTT宇宙環境エネルギー研究所の研究内容を見る