藻類とは?定義や分類、CO2変換技術とのかかわりを詳しく解説

      藻類とは、わかめや昆布などの海藻をはじめとする、陸上植物以外で光合成を行う生物です。以前は植物に分類されていましたが、現在では植物とは区別されるようになっています。
      この記事では、藻類の定義、種類と分類の一覧、多様化と細胞共生、およびバイオマスへの活用によるCO2削減について詳しく解説していきます。(公開日:2021/10/28 更新日:2024/02/05)

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      1. 藻類とは?

      藻類とは、『光合成事典(Web)版』(日本光合成学会編、2015年4月公開)によれば、以下のように定義されています。

      「酸素発生型光合成を行う生物のうち,陸上植物を除いたものの総称.また明らかにそれに近縁な非光合成生物も含む」

      (出典:光合成事典『藻類』)

      「酸素発生型光合成」とは、光合成反応に必要な電子を水から得ているため、結果として酸素が発生する光合成です。酸素発生型光合成に対して、光合成細菌などが行う、水以外の物質から電子を得る「非酸素発生型光合成」もあります。
      藻類の分類は以下の図で示されます。分類名は図中の白抜き文字で記載されています。

      (画像出典:SHIGEN『Tree to Strain』生命の系統樹 Tree of Life)
      (画像出典:SHIGEN『Tree to Strain』生命の系統樹 Tree of Life)

      私たちに身近な藻類として、食卓でおなじみのわかめや昆布、海苔、青のり、もずくなどの海藻や、健康食品として利用されることも多いクロレラ、ユーグレナなどがあります。
      また、毎年数億人が感染し、100万人以上の命を奪うマラリア原虫は、退化した葉緑体を有しており、その起源は紅色植物の共生であると考えられています。
      光合成による酸素の発生は、約25億年前のシアノバクテリアの誕生によりはじまり、それ以降、細胞共生(後述)が繰り返されることにより、さまざまな藻類が誕生したと考えられています。従って、藻類は酸素を作った張本人、現在の好気的な地球環境を創出したキープレイヤーだといえるでしょう。
      藻類は植物プランクトンや海藻など水域にいるものが多いですが、土壌や岩、樹皮上、岩中、雪、氷、塩湖、温泉などさまざまな環境で見つかります。二酸化炭素の固定能力が高いこと、および下水や排水なども生育環境とできることなどから、近年では藻類が生産するオイルなどをエネルギー源として活用する「藻類バイオマス」の研究が盛んに進められています。

      2. 藻類は植物なのか?

      「藻類は植物なの?」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。たしかに以前は、藻類は植物に分類されていたこともありました。しかし、上の定義にあるとおり、近年では藻類は植物に含めないのが一般的です。
      「藻類は植物なのか」を考える際には、まず「植物とは何か」が決められなくてはなりません。
      以前は、生物を動物と植物の2つにわける考え方が広く用いられていました。その場合には、藻類は植物であることになります。また、「光合成を行い独立栄養で生きる生物」を植物とする考え方もあります。この考え方に従えば、光合成を行う藻類はやはり植物に分類されます。
      しかし、近年では「コケ植物、シダ植物、種子植物の陸上植物のみを植物とする」との考え方が一般的になっています。陸上植物はすべて共通の祖先である緑藻から進化した単系統群と考えられ、このような系統をもとにした分類方法は分類学の考え方によく合うからです。この考え方に基づけば、上述のとおり藻類は植物ではなくなります。
      なお、最近の研究によれば、藻類は単系統群ではなく、さまざまな系統群に散らばって存在していることが明らかになっています。

      3. 藻類の種類と分類

      藻類の種類と分類を見ていきましょう。藻類の分類は、19世紀前半のフランスの植物学者ラムール(J. V. F. Lamouroux)とアイルランドのハーヴィー(W. H. Harvey)らによる体色に基づいた分類にはじまり、20世紀前半のパッシャーによる形質を考慮に入れた分類を経て、現在の分類へと至っています。

      3-1. ラムールとハーヴィーらによる分類

      19世紀前半、ラムールとハーヴィーは、藻類をその体色によって以下のようにそれぞれ3種類および4種類に分類しました。

      【ラムールによる藻類の分類】

      分類系 体色 相当する現在の分類群
      Ulvacee 緑藻綱(Chlorophyceae)
      Fucacee 黒・褐 褐藻綱(Phaeophyceae)
      Floridiae 紅色綱(Rhodophyceae)

      (出典:筑波大学生物科学系 植物系統分類学研究室『藻類の分類と系統』)

      【ハーヴィーによる藻類の分類】

      分類系 体色 相当する現在の分類群
      Chlorospermeae 緑藻綱(Chlorophyceae)
      Melanospermeae 黒・褐 褐藻綱(Phaeophyceae)
      Rhosospermeae 紅色綱(Rhodophyceae)
      Diatomaceae 珪藻と緑藻のチリモ類

      (出典:筑波大学生物科学系 植物系統分類学研究室『藻類の分類と系統』)

      この時代には、体色は単に生物を区別するための性質のひとつでした。しかし、実は藻類の体色は光合成色素の違いを反映しています。従って、上の分類系は現在でも、大筋においては基本的に継承されています。

      3-2. パッシャーによる分類

      藻類の分類系の実質的な基礎を築いたのは、20世紀前半に精力的に研究を行った、ボヘミアの藻類学者パッシャー(A. A. Pascher)だといわれています。パッシャーは体色に加え、遊泳細胞の形態や生殖、生活環などさまざまな性質を考慮に入れ、藻類を以下のように8種類に分類しました。

      【パッシャーによる藻類の分類】

      分類系 相当する現在の分類群
      Chrysophyta(黄金色植物門) Heterokonta(不等毛植物門)
      Phaeophyta(褐色植物門)
      Pyrrophyta(炎色植物門) Dinophyta(渦鞭毛植物門)
      Euglenophyta(ミドリムシ植物門) Euglenophyta(ミドリムシ植物門)
      Chlorophyta(緑藻植物門) Chlorophyta(緑色植物門)
      Charophyta(車軸藻植物門)
      Rhodophyta(紅色植物門) Rhodophyta(紅色植物門)
      Cyanophyta(藍色植物門) Cyanophyta(藍色植物門)

      (出典:筑波大学生物科学系 植物系統分類学研究室『藻類の分類と系統』)

      現在の藻類分類システムは、このパッシャーによる分類の延長上にあるといわれます。

      3-3. 現在の分類一覧

      現在では、藻類の分類は電子顕微鏡による細胞の微細構造観察からの知見が活用されています。また、1980年代以降には、生物のタンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列により系統解析を行う「分子系統学」の手法も、藻類の研究に導入されています。
      この電子顕微鏡による観察と分子系統学をふまえ、現在では藻類は11種類に分類されています。
      下の図では、11種類のうち、クロメラ類を除く10種類の各藻類に共通する特徴を以下の5つの観点でも示しています。

      • 主要色素
      • 補助色素
      • 貯蔵物質
      • 鞭毛
      • 共生の回数と葉緑体の起源
      (画像出典:筑波大学生物科学系 植物系統分類学研究室『藻類の分類系』)
      (画像出典:筑波大学生物科学系 植物系統分類学研究室『藻類の分類系』)

      分類された11種類の概要は下の表のとおりです。

      分類名 説明 画像 画像説明
      シアノバクテリア
      (cyanobacteria)
      ※上図では藍色植物門および原核緑色植物門
      藻類、ラン藻とも呼ばれる。酸素発生型の原核光合成生物。    
      灰色植物
      (glaucophytes)
      原始的な葉緑体を持つことで注目される真核藻類。単細胞または不動性群体で、淡水の湖や池などに生育する。 1: Cyanophora (NIES-763)、2: Glaucocystis (NIES-966)
      紅色植物
      (rhodophytes)
      葉緑体が紅色なことが多いためこの名前で呼ばれ、「紅藻(red algae)」と呼ばれることもある。ほとんどは沿岸域に海藻として生育するが、淡水や土壌、温泉などに生育するものもある。 1: Porphyridium (チノリモ綱, NIES-1034)、2: Hypnea(真正紅藻綱, Hok-50)、3: Antithamnion(真正紅藻綱, KU-1001)、4: Rhodella(ロデラ綱, NIES-1037). 5: Porphyra(ウシケノリ綱)
      緑藻(広義)
      (green algae)
      ※上図では緑色植物門
      緑藻(広義)は葉緑体が緑色を呈する「緑色植物(green plants)」のうち、陸上植物を除いたものの総称。海から淡水まで水域に広く生育し、陸上に生育するもの、塩湖や雪などに生育するものもある。 1: Pediastrum (緑藻植物門, NIES-211)、2: Botryococcus (緑藻植物門, NIES-836)、3: Closterium (接合藻綱, NIES-228)、4: ミヤコグサ (陸上植物)
      クリプト植物
      (cryptophytes, cryptomonads)
      単細胞遊泳性の藻類。植物プランクトンとして淡水から海水まで広く生育する。    
      ハプト植物
      (haptophytes)
      葉緑体が黄褐色を呈し、多くが単細胞性の藻類。多くは海で植物プランクトンとして生育する。    
      不等毛植物
      (heterokontophytes)
      ※上図では黄色植物門
      葉緑体が黄褐色を呈するものが多く、黄色植物(chromophytes)とも呼ばれる。単細胞のものから、コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズクのような海藻など、多細胞体を形成するものもある。    
      クロメラ類
      (chromerids)
      単細胞不動性の藻類で、細胞壁に囲まれている。含まれる種(クロメラ、ヒドレラはいずれもサンゴから見つかっており、サンゴと共生関係を築いている可能性があるとされる)    
      渦鞭毛植物
      (dinophytes、dinoflagellates)
      核が極めて特徴的で、DNAが真核細胞で一般的な構造(ヌクレオソーム構造)を形成せず、特異なタンパク質とともに複雑に凝集している。    
      クロララクニオン藻
      (chlorarachnids、chlorarachniophytes)
      ※上図ではクロララクニオン植物門
      基本的に単細胞性で、糸状の仮足をもつアメーバ性、1本の鞭毛をもつ遊泳性、細胞壁で囲まれた不動性の3パターンがある。多くは海でプランクトンなどとして生育する。    
      ユーグレナ藻
      (euglenids、euglenoids、euglenophyceans)
      ※上図ではユーグレナ植物門
      ミドリムシなどを含む藻類です。光合成を行うものもある。 左: Eutreptiella (ユートレプチア目, NIES-381)、中上: Petalomonas (スフェノモナス目)、中下: Euglena (ユーグレナ目)、右上: Ploeotia (ヘテロネマ目)、右下: Phacus (ユーグレナ目)

      (画像出典:SHIGEN『Tree to Strain』生命の系統樹 Tree of Life)

      4. 藻類の多様化と細胞共生

      藻類や陸上植物が有する葉緑体は、前述のとおりシアノバクテリアを起源とするためシアノバクテリアと系統的につながっています。
      しかし、藻類は多系統に散らばって存在します。これは、藻類が細胞共生を繰り返しながら進化してきたからだと考えられています。

      4-1. 現在の分類一覧

      細胞共生とは、ある生物の細胞が別の生物の細胞を食べ、自分の一部とすることです。細胞共生において食べられた細胞は、消化され消えてなくなるのではなく、食べた細胞の内部で姿を残し、機能し続けることになります。
      従って、ある生物の細胞が細胞共生によって別の生物の細胞を取り込むことで、取り込んだ生物でも取り込まれた生物でもない、全く新しい第3の生物が誕生することになります。
      藻類は下の図にあるとおり、2度の共生により進化したと考えられています。

      (画像出典:日本植物学会『一次植物と二次植物』)
      (画像出典:日本植物学会『一次植物と二次植物』)

      4-2. 一度目の細胞共生

      一度目の細胞共生(一次共生)は、宿主となった真核生物にシアノバクテリアが共生し、藻類・植物細胞の祖先が誕生しました。この一次共生した祖先の細胞が進化することにより、紅色植物、灰色植物、緑色植物(上図の一次植物)が誕生したといわれています。

      4-3. 二度目の細胞共生

      シアノバクテリアとの共生により誕生した紅色植物と緑色植物が、次にまた、それぞれ別の生物と二度目の細胞共生(二次共生)をしたと考えられます。紅色植物との二次共生で誕生したのが渦鞭毛植物、ハプト植物、不等毛植物、クリプト植物、また緑色植物との二次共生で誕生したのが、クロララクニオン藻、ユーグレナ藻だといわれます(上図の二次植物)。
      上の図にはありませんが、クロメラ類も、紅色植物との二次共生で誕生したと考えられています。ただし、以上に当てはまらない組み合わせの二次共生で誕生した藻類の存在も示唆されています。

      5. 藻類のCO2削減への活用

      さて、近年では地球環境の再生と持続可能な社会の実現が大きな課題となっています。この課題の解決には、地球に対する環境負荷を減らさなくてはなりません。
      地球への環境負荷のひとつとして二酸化炭素(CO2)が挙げられます。2016年11月に発効されたパリ協定でも、CO2などの温室効果ガスの削減が求められています。このCO2削減のために、藻類のバイオマスとしての活用に期待が高まっています。

      5-1. バイオマスとは?

      バイオマスとは、動植物などから生まれる生物資源の総称です。バイオマスを燃焼させる際に放出されるCO2は、光合成生物が成長過程で光合成により大気から吸収したものです。従って、バイオマスは環境に優しい資源とされます。
      バイオマスの種類には大きくわけて以下の3つが挙げられます。

      1. 廃棄物系バイオマス
        家畜排せつ物、食品廃棄物、廃棄紙、黒液(パルプ工場廃液)、下水汚泥、し尿汚泥、建設発生木材、製材工場等残材など
      2. 未利用バイオマス
        稲わら、麦わら、もみがら、林地残材など
      3. 資源作物
        糖質資源(さとうきびなど)、でんぷん資源(とうもろこしなど)、油脂資源(なたねなど)、柳、ポプラ、スイッチグラスなど

      藻類は、このうち資源作物のひとつとなります。

      5-2. 藻類バイオマスの優位性

      藻類から得られるバイオマスの利用法は、液体燃料、糖質、飼料、化粧品などの原料、医薬品などの原料、生分解プラスチックの生産など多岐にわたります。藻類バイオマスのほかのバイオマスと比較した場合の優位性として、以下のものが挙げられます。

      • 藻類は繁殖力が高いため、面積あたりのオイル生産量を高められる
      • 耕作地が不要で海水・汽水、下水・排水などでも生育するため、農業との土地・水の競合が避けられる
      • 下水・排水の処理にも利用できる

      5-3. ゲノム編集などの技術でさらに効率的に

      この藻類からのオイル生産量をどう高められるかも、研究が進められています。ある研究事例を以下にご紹介します。
      その研究事例では、藻類のオイル生産メカニズムの追求により、「TOR」と呼ばれるタンパク質が、オイル生産のON・OFFを決めるスイッチの役割をしていることがわかりました。ところが、このTORによるスイッチをONにすると、藻類はオイル生産をはじめるものの、細胞増殖が止まってしまいます。
      「藻類にオイル生産をさせつつ細胞増殖も両立させ、オイルの生産性をより高められないか」
      そのような課題のもとに研究を進めた結果、あるひとつの遺伝子を強化することにより、藻類のオイル生産と細胞増殖を両立させ、オイルの生産性を56倍以上に高めることに成功しました。

      6. まとめ

      • 藻類とは酸素発生型光合成生物のうち陸上植物以外のもの。
      • 藻類は、以前は植物に含められていたものの、近年では植物とは区別されるようになっている。
      • 藻類は現在では11の種類に分類される。
      • 藻類の多様化には細胞共生が大きな役割を果たしてきた。
      • 藻類バイオマスへの活用によるCO2削減に期待が高まっている。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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