
技術入門
ネットワークキャリアのオペレーションとは
~第1回 オペレーションの概要~
NIC ネットワークオペレーションプロジェクト
丹治 直幸(たんじ なおゆき)
#オペレーション#ネットワーク#データサイエンス
2024/6/24
はじめに
こんにちは!NIC ネットワークオペレーションプロジェクトの丹治です。
これから全3回(予定)の記事にて「ネットワークキャリアのオペレーション」について紹介させて頂きます。
第1回 オペレーションの概要(本記事)
第2回 NTTのオペレーション業務(2024/10/31掲載)記事のリンクはこちら
第3回 NTTのオペレーションシステム(後日公開予定)
まずは、第1回として、オペレーションの世界で(曲がりなりにも)10年以上を過ごしてきた私より「オペレーション」の紹介をさせて頂きます。
この記事では、最初にオペレーションの研究開発の雰囲気を掴んで頂くために技術動向を紹介させて頂き、その後に、本題の「オペレーションとは?」の解説、最後に電話サービスの歴史を振り返りながら、通信サービスのオペレーションの進化を皆様に紹介致します。
最近のオペレーションの技術動向
本題に入る前に、オペレーションの研究開発における最近の技術動向の話をさせて頂きます。
現在のオペレーションの研究開発テーマの多くは、機械学習(ML:Machine Learning)や大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)などの技術を用いるデータサイエンスと相性の良いものが多いです。
具体的に扱うデータは、各装置から取得した通信量などのネットワークトラフィック(数値データ)やログ(一定の構造を持つ文字列データ)、オペレータが参照している業務フロー・マニュアル(自然言語情報)、過去の故障対応履歴・操作ログ(様々な情報の複合体)など、多種多様なデータが存在します。
それらのデータと、データサイエンスの技術を用いて、「通信サービスの高品質化・安定化」し、「ユーザへ新たな価値を提供」するために下記のような取り組みを行っています。
通信サービスに異常が発生する前に故障発見(異常検知)する技術に取り組んだり......
故障影響の迅速な把握を行うためのデータ連携・可視化を行ったり......
発見した故障の迅速な復旧のため、原因の切り分けや復旧手順の検討を支援、あるいは、自動化する技術に取り組んだり......
それらの各技術要素を連携させることで、故障発見から復旧までの一連の流れを自動化する仕組みを作ったり......
エンドユーザの通信品質を向上させるために、最適な制御方法を導出する方式を研究したり......
大規模なネットワークの長期間運用によって蓄積したデータ群から知見を導出する方法を考えたり......
シミュレーション環境で試行錯誤を繰り返すことで、将来発生するかもしれない故障パターンを導き出したり......
ネットワークの専門知識を持たない方々(アプリケーション開発・提供事業者など)に適切なネットワークを提案する技術に取り組んだり......
はたまた、IOWNのオールフォトニクスネットワークのような新しいネットワークのオペレーションアーキテクチャを考えたり......
と......多種多様な取り組みにチャレンジしています(上記で表現できていない研究開発テーマもあります)
次回以降、具体的な研究開発テーマの話も続々投稿される予定です!ぜひ、次回以降の記事もチェックをお願い致します!
話を戻して、次節から「オペレーション」の紹介をさせて頂きます。
オペレーションとは
「オペレーション」という単語を聞いて、どのような印象を持ちますか?
オペレーションとは、場面ごとに様々な意味を持つ言葉です。
例えば、医療では手術(オペ)、軍事では軍事作戦(オペレーション○○)、ITでは人間がシステム・設備を操作して行う作業全般の意味で使われています。それらをまとめると、オペレーションとは、「その分野における目的を達成するための業務遂行」と言えるでしょう。
......なんだか、雲を掴むような話になってしまいました。
身近な例を対象にして、「オペレーション」とは具体的にどのようなものなのか、考えてみましょう。
身近なオペレーションの例
さて、皆様は遊園地の従業員です。
来場者に夢を与える、もとい、従業員として遊園地のビジネスを支えるために、すべきことは何でしょうか?
まず、収入を得るために来場(≒チケット購入)して頂かねばなりませんね(料金請求)
次に、来場者に安全に楽しんでもらうために、各アトラクションの点検・修理・運転をしなければならないでしょう(運用)
そして、何度も来場し続けて頂くために、定期的にお客様満足度などを確認し、現状の課題を分析することも必要です(フィードバック)
その結果、例えば、ユーザが既存のアトラクションに飽きを感じているとなれば、対策案として新アトラクションの立案・設計(企画・設計)
構築・プロモーション(導入)を行う必要がありそうです。
継続的な売り上げを確保し続けることで遊園地をビジネスとして成立させ、更に継続的に発展させ続けるためには、これらのサイクル(企画・設計→導入→課金→運用→フィードバック)を回し続けることが必要になるでしょう。遊園地におけるオペレーションを図にまとめました。

通信事業におけるオペレーションの例
通信事業におけるオペレーション例を紹介します。
業務の中身は異なりますが、「企画・設計、導入、課金、運用、フィードバック、を繰り返す」、という点は遊園地のオペレーションと同じです。
なお、これらの通信事業における各オペレーションの詳細は、次回以降の記事で改めて紹介予定です。ぜひ更新をチェックしてください!

通信サービスのオペレーションの歴史
上記で述べた通り、オペレーションとは「その分野における目的を達成するための業務遂行」であり、サイクルを回し続けることでビジネスを継続的に発展させるものでなければなりません。
通信のオペレーションは、どのようにビジネスを発展させてきたのでしょうか?その答えを得るために、歴史を紐解きたいと思います。
歴史を振り返りながら、時代の変化に対してオペレーションがどのように進化してきたのかを紹介します。
時代1:手動オペレーションの時代
最初の時代は1890年。
この年に東京市内と横浜市内を結ぶ電話サービスが開始されました。
(ちなみに、この東京~横浜間の電信線架設工事に着手した10月23日をNTTでは電電記念日と呼んでいます)
当時の電話は、現在のような電話番号で相手と繋がる、という仕組みではありませんでした。当時の電話機(デルビル磁石式壁掛け電話機)にはダイヤルやボタンがなく、ユーザが受話器を取ると、最初に「交換手」と呼ばれる電話サービスのオペレータに繋がりました。そして、ユーザは交換手に「横浜市の○○と接続してください」と伝える、交換手はそれに応じて、回線同士を手動で接続する、すると、ユーザ同士の通話が成立する、という仕組みでした。
そのため、この時代は、通話ごとに手動で接続を行うというオペレーションが必要となっていました。

映画などで見たことがありますか・・・?

穴が電話機と対応していて、それらを交換手が手動で接続します
なお、東京都武蔵野市のNTT技術史料館にて、電話回線同士を接続するオペレーションの実体験が出来ます。ぜひお立ち寄りください(無料です)
このページの写真もNTT技術史料館の実物を撮影したものです。ぜひお立ち寄りください(無料です)
https://hct.lab.gvm-jp.groupis-ex.ntt/experience/index.html
話を戻します。
さて、電話(通信)サービスは、その特性上、多くのエリア、多くのユーザに利用頂けることが望ましいです。しかし、人力によって接続を実現するオペレーションは、サービス規模拡大のボトルネックです。継続的な発展のため、通信およびオペレーションは進化しました。次の時代を見ていきましょう。
時代2:自動交換機の登場
次の時代は1926年。
この年に「交換手」の代わりに回線の接続を行う「自動交換機」が登場しました。自動交換機は、電話番号の信号を受け取り、接続したい回線を自動判定し、接続する機械です。自動交換機により、交換手が行っていたオペレーションは不要となりました。
しかし、その代わりに今度は「自動交換機を安定して動作させ続ける」ためのオペレーションが必要になりました。
具体的には、自動交換機が受け付けた電話番号に合致する接続先を選べているか、などの機能面の正常性や、各部品の劣化や欠損がないか、油やグリスが切れていないか、動作速度や動作音に異常がないか、などの機械としての正常性・不具合の予兆有無を観察・点検し、見つけた異常・不具合の復旧を行うといったオペレーションです。
これらのオペレーションは、機械の故障発見など目視に頼っている部分も多く、かつ、可動部が多いため機械自体の寿命がそれほど長くない、といった欠点がありました。そのため、提供エリアの拡大など、サービスの高品質化を実現するためには、更なる改善が必要でした。

電話番号に対応する接点が接続されることで電話が繋がります


時代3:デジタル化
このテーマの最後の時代は、1982年です。
この年になると、それらの改善を実現するため音声や制御信号をデジタル化した「デジタル交換機」が開発・導入されました。デジタル交換機は自分自身で異常を検知し、故障ランプを点滅させるなど優れた機能を有しており、これまでの目視確認による異常・不具合の検出は不要となりました。
その後、更に時代が進むと、提供エリアごとに分散配置した交換機をネットワークで接続することで、一つの拠点から全国の装置を遠隔監視・制御することが可能となり、現代のように全国の数千、数万の装置を数人から数十人で見守ることが出来るようになっていきます。

おわりにかえて ~高品質な通信サービスを提供し続けるために~
さて、通信サービスの大御所「電話サービス」の歴史を振り返る形で、オペレーションの進化を紹介致しました。
現在、NTTグループが提供しているサービスは大小合わせて250を超えています。オペレーションは、それらのサービス一つ一つの特性や、オペレータの人数、スキル、既存の業務システム、業務フロー等を考慮する必要があります。歴史を振り返りながら紹介させて頂いた通り、常に進化させ続けることも必要です。
我々、NIC ネットワークオペレーションプロジェクトは、進化を実現するべく、実運用で発生している問題や、新たなサービス提供等の状況変化によって今後発生すると考えられる問題の分析、課題抽出を行い、最新技術の導入によって、それらの課題解決を行っています。
オペレーションは、その国の国民性や価値観、企業の風土や経営戦略などに大きく影響を受けるため、似たようなサービスであっても、何かが異なれば、全く違うオペレーションになることも珍しくありません。それぞれのオペレーションにそれぞれの課題が存在します。
やや大仰な表現ですが......オペレーションは我々人類の飽く無き探求心・好奇心を、どこまでも受け止め続ける非常に魅力のある研究分野です。
ぜひ、今後、何かのサービスを利用する際は、その裏に隠れているオペレーションに想いを馳せて頂きつつ......更には、そのオペレーションの研究開発に真摯に取り組んでいる人達がいることを思い出して頂ければ幸いです。
次回以降も、オペレーションに関する熱い想いを持ったメンバが執筆させて頂きます!ぜひチェックをお願いします!
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