社会情報研究所Well-being研究プロジェクトでは、
Social Well-being という概念を重視しています。わたしたちは、Social Well-beingを考える中で、京都大学の哲学者である出口教授が提唱する
Self-as-We(「われわれ」としての「自己」)に着目しています。Self-as-Weの考え方は、
NTTグループサステナビリティ憲章の基本理念として据えられています。本記事では、Self-as-Weに関する研究の内容について紹介します。
Self-as-Weとは
わたしたちはSocial Well-beingの概念として、京都大学の哲学者である出口教授が提唱するSelf-as-We(「われわれ」としての「自己」)に着目しています。Self-as-Weには「自分だけではなく、他の方の幸せも同時に考える」という特徴があります。この概念を利用することで、「自己」を従来の独立した個人としてイメージするのではなく、「われわれ」の中の一員でありつつ、自律した「わたし」をイメージするような自己観を説明することができます。例えば、ある個人が「チームの成功・失敗も自分事のように感じられる」というような感覚を抱くことがSelf-as-Weを感じているということになります。
Self-as-We尺度の開発
チームにおいてWell-beingを実現する上で大切なSelf-as-Weというコンセプト、その具体的な状態を測るために研究開発された物差しが、「Self-as-We尺度」です。 ある人が、所属する特定のチームに対してどの程度Self-as-Weを感じられているか、様々な質問で、以下の7つの要素を確認することで、その人が現在どの程度Self-as-Weな状態であるかを確認することができます。
Self-as-We尺度に関連する研究
2020年より京都大学出口教授とNTT研究所は共同研究を開始し、2020年にはSelf-as-We尺度(共同行為態度(14項目)、超越特性(8項目))を開発しました。Self-as-We尺度は「個人特性」「場」「超越特性」を計測可能です。2023年には、回答者への負担を軽減するために質問項目を7項目に減らし、質問項目の文言を特定の「共同行為の場」に焦点を当てた
「共同行為の場を評価するSelf-as-We尺度2023 」
を開発しました。学校(
横山ら、2023
)や職場(
土屋ら、2023
)など、測りたい場によって質問文の一部の文言を変更することで計測ができるようになりました。
Self-as-We尺度を用いた研究とSelf-as-We尺度の変遷
- 「われわれとしての自己」を評価する --Self-as-We尺度の開発--(渡邊ら, 2020)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/254083]
- 新型コロナウイルス感染拡大下における抑うつ傾向と「われわれとしての自己」との関係--(村田ら, 2020)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/260588]
- 「われわれとしての自己観」とコミュニケーション --自己観がオンライン対話の参加に与える影響--(中谷ら, 2022)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/275647]
- Measuring individual differences of Self-as-We: Reliability and validity of revised version of the Self-as-We scale(Murata et al., 2022)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/275648]
- 共同行為の場を評価するSelf-as-We尺度の開発 --働く場における規模の異なる集団を対象とした検証--(戸田ら, 2023)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/283898]
- 部活動におけるウェルビーイングを起点としたチームビルディングの検討 --富良野市の中学校野球部における取り組み--(横山ら, 2023)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/284739]
- 働く場に対するSelf-as-We評価と従業員の属性の関係 --NTTグループを対象とした大規模調査--(土屋ら, 2023)[https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/285762]
- From Incapability to We-turn(Deguchi, 2023)[https://library.oapen.org/bitstream/handle/20.500.12657/85189/New_Meta-Science.pdf?sequence=1#page=45]
Self-as-We尺度最新版
「個人特性」
(チームに属する個人がどのようなSelf-as-Weを持つか)、
「場 」
(チームがどのようなSelf-as-Weの状態であるか)、
「超越特性」
(人間社会のような広い範囲の集団に属する個人がどのようなSelf-as-Weを持つか) を評価するSelf-as-We尺度の最新版は以下の通りです。
Self-as-We尺度の使い方(例:チームの状態評価)
Self-as-We尺度を用いて「場」の評価をする際には、
「共同行為の場を評価するSelf-as-We尺度2023 」
を用います。質問紙で自身が評価をする組織を記入します。7つのカテゴリは変更せず、軽微な文言修正を行います。
Self-as-We度は7項目の平均で算出します。また7つの下位概念により組織ごとの違いについて分析することができます。会社を例にすると、Self-as-We度が高い部署や、部署内では社員と管理職などの属性によってSelf-as-We度が異なるというような、部署ごとの特徴を把握できます。7つの下位概念の得点を分析するとグループの強みや補うべき点を詳細に可視化できます。分析結果から課題のあるグループへの改善施策として、
グループとして関係づくりを行うワークショップや一体感を高めるワークショップ
などが挙げられます。