
2023年11月15日(水)から26日(日)、東京都渋谷区にあるECO FARM CAFÉ 632において「みるカフェ」が開催されました。
みるカフェは2025年に東京で開催されるデフリンピック(4年に一度開催されるデフアスリートの国際スポーツ大会)の気運醸成のために、東京都が期間限定でオープンしたコンセプトカフェです。きこえる・きこえないに関わらず誰もがつながれるコミュニケーションをめざし、店内では言語を“見える”化するデジタル技術などが活用・展示されました。
わたしたちが関わった展示(※)では、身体性コミュニケーション技術を使って離れたところにあるテーブルの振動を伝え合う体験をしていただきました。きこえる・きこえないに関わらず、映像と振動だけでどれだけコミュニケーションができるかを体感することができます。
※わたしたちは、NTTドコモの触覚共有技術「FEEL TECH®︎」(※参考2)を技術的に支援する形で本展示に参加しています。
身体性コミュニケーション技術は、遠隔との通信を含むコミュニケーションの中に、視覚や聴覚にくわえて触覚の要素を適切なかたちで与えることで、コミュニケーションを活性化し、共感や信頼を醸成する技術です。みるカフェでは、映像のやり取りにくわえて2台の振動するテーブルを設置し、片方のテーブルを叩いた振動をもう一方のテーブルに伝えることで、視覚と触覚を使いながらコミュニケーションをとっていただきました。このシステムは、離れた人との共同行為の場をつくり、お互いの心の距離を近付けることをめざしています。
今回は、言葉を使わず身振り手振りに加えて振動を伝える「触覚付きジェスチャーゲーム」を体験していただきました。「伝える側」が出題者、「伝えられる側」が回答者となります。デフリンピック気運醸成イベントということで、お題は「デフリンピックで行われる競技を触覚で表現」としました。特徴的な5つの競技を選択肢としてピックアップし、出題者はボールやブラシなどの道具を使って回答者に振動で競技を伝えます。ただし、実際の競技に使用される道具を使うことはできません(例えば、お題が「卓球」の場合はピンポン玉など)。回答者はテーブルに手を置き、送られてくる振動から、相手が伝えようとしている競技はどれかを考えます。
実際の体験事例を紹介します。
出題者側の例です。
まず、マッサージローラを転がして、重たいボウリング玉が転がる様子を、次に紙コップに入れたビー玉をガシャガシャと揺らしてピンが倒れる様子を表現します。
今度は回答者側になって競技を想像してください。
まず、何かが繰り返し弾んでいるような振動を感じます。出題者がスーパーボールで板を叩いているようです。その後、ブラシでテーブルを撫でている映像と同時に、何かに擦られているような振動が送られてきました。
どの競技でしょうか?
出題者が伝えたかったのは「バスケットボール」でした。ドリブルとシュートをスーパーボールとブラシの振動で表現していました。
他にも、卓球のラリーをリズムで伝えるなど、振動の長さや強さ、間隔によって競技を表現することができます。
きこえる人にとっては、振動を使って何かを表現したり、相手が伝えていることを想像したりする機会は少ないかもしれません。この伝言ゲームでは、きこえる人もきこえない人も同じように、触れることによって楽しみながらコミュニケーションをとることができます。
聴覚障がいのある方からご意見をいただくため、NTTクラルティの織田修平さん、須川幸一さんに触覚付きジェスチャーゲームを体験し、コメントをいただきました。
須川さんは、触覚付きジェスチャーゲームではリズムが大事と話してくださいました。
「出題者と回答者が共通の場面を想像していると正解しやすく、卓球とボウリングはラリーや一連の動作をイメージしやすいので、わかりやすいです。一方で、サッカーはロングパスやショートパスなどの組み合わせがあり、特定のリズムを想像しづらいため回答の難易度が高かったと感じます。」
織田さんは、このようなイメージの違いを照らし合わせるのが面白いと話してくださいました。お二人は画面上で手話を使って、出題者側が表現したかったことと、実際に感じた振動から回答者側が想像した場面を伝え合い、ジェスチャーゲーム後の答え合わせまで楽しんでいました。
また、聴覚障がいのあるお二方にとって振動は音をイメージする重要な情報となっているようです。
「音を発生させているモノが硬いか柔らかいか、軽いか重いかによって身体に伝わる振動の長さの感じ方が異なります。(きこえる音ときこえない音があるので、)きこえる音の特性と照らし合わせながら、キレのある短い振動のときは高い音(をイメージし)、ふんわりとした長い振動のときは低い音(をイメージする)というように、きこえない音の高低をイメージすることがあります。」
今回、直接ご意見を伺ったのは織田さんと須川さんだけでなく、カフェスタッフの聴覚障がいのある方々にも体験いただきました。展示への理解を深めていただき、期間中はお客様への説明にご協力いただきました。
みるカフェでは触覚ジェスチャーゲームとして触覚で伝えあうコミュニケーションを楽しんでいただきましたが、触覚伝送技術を用いることで日本にいる人の心臓の鼓動をアメリカに届けたり、病院など外との接触機会が少ない子どもたちとスポーツ選手で遠隔ハイタッチをしたりと、離れたところにいる人たちを振動でつなぐ取り組みも実施しています。
振動などの触覚データをネットワークにのせて伝えることによって、映像や音、文字や言葉による表現だけでは伝えきれなかった感覚を相手に共有し離れていてもお互いの心の距離を近づけ、Well-beingなつながりをつくることをめざします。