Shinobu Saito
ソフトウェア開発技術プロジェクト
特別研究員
(2018年11月取材時点)
私は、自身の専門分野の研究とは別に、特別研究員としての活動も行なっています。 特別研究員とは、所属する研究所(SIC)、およびNTTグループが行なっている研究開発の取り組みの重要性や有効性を社内外に発信していく役割を担っています。 NTTグループは、ソフトウェア開発分野において、高い品質を保ちつつ、早く、安く開発するためのノウハウと手法の確立に向けた研究開発に取り組んでいます。こういったノウハウと手法は、グループの強みとして売り出せるものだと思います。例えば、トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」。コストを下げて品質を保つための品質管理手法として広く知られるようになり、同社のブランディングとしても大きな効果をもたらしました。 NTTグループにおいても同様、 “NTTにはこんな技術があるから良いソフトウェアが開発できるんです!”とアピールできる、1つのブランディング戦略として使えるものとなるはずですし、専門分野の研究と同時並行で、こうしたことを考えています。
現在取り組んでいる研究内容は、ソフトウェアを作るための知識やノウハウを復元する仕事、専門的な言葉でいうと「システム理解技術」になります。システム理解技術は、「動いているソフトウェアが、どんな場面で、どのような利用者が、どんなふうに使われているのか」を知るための技術と言えます。一般的にソフトウェアは、開発者がプログラミングをした当時に想定した使われ方から時間経過とともに変化していたり、全く想定していなかった使われ方が利用者側でされていたりする場合が多くあります。
例えば、スマートフォンのアプリケーションが新しいバージョンになった際に、画面の見栄えや操作方法が変わることがありますが、この変更でこれまで利用していた人達からの評価が一気に下がってしまうことがあります。これは、ソフトウェアの開発側が、利用者の使い方を十分に調査しないままソフトウェアを作り直してしまった場合に起こり得る現象です。企業内の大規模システムにも同じような現象は起きていると言えます。
利用者がソフトウェアを使うと、それがどのような時に使われたのか、どんな使い方をされたのか、あるいは、どんな部分が使われていないかというデータが残ります。「システム理解技術」は、そのデータを分析し、ソフトウェア、およびそれを利用する業務の内容を明らかにしていく技術です。この技術により、システム内に残る情報から、利用者が使いやすいソフトウェアを開発するための情報を復元し、提供できるようになります。
ソフトウェア開発の分野でも、デザイン思考やユーザーエクスペリエンスなどが注目されるようになり、利用者の要望やニーズを追及するアプローチの重要性が認識されています。一方、先ほど述べた現象が起きないためには、要望やニーズを聞くだけでなく、実際に動いているソフトウェアの使われ方を十分に把握していなければいけません。当然、調査が必要になりますが、これまでの調査手法は実にアナログ的なものでした。例えば、ソフトウェアの利用者の後ろに調査担当者が立ち、使われ方を観察する「シャドーイング」と呼ばれる手法があります。対象とするソフトウェアや利用者の規模によっては、数か月を要する調査が必要な場合もあります。こういった背景もあり、ソフトウェアの使われ方をできるだけ早く、かつ正確に理解したいという問題意識から注目したのが「システム理解技術」になります。現状、ソフトウェア開発の分野では、AIやロボットの活用もかなり進み、ソフトウェアを作ることや動かすことの自動化や自律化はかなり実現できてきています。しかし、お客さま(利用者)の業務も含めたシステムを理解することはまだまだ人が関与する部分が多く残っています。お客さまのニーズに寄り添う開発ができること、これは、IT専門家の新しい価値として1つあるのではないでしょうか。
Shinobu Saito
ソフトウェア開発技術プロジェクト
特別研究員
現在、ソフトウェアイノベーションセンタ所属。ソフトウェア工学、特に上流プロセスの研究開発に従事。
論文(論文誌):
Shinobu Saito, Yukako Iimura, Aaron K. Massey, and Annie I. Antón, Discovering undocumented knowledge through visualization of agile software development activities, Requirements Engineering, September 2018, Vol. 23, Issue 3, pp. 381-399(2018.9)
論文(国際会議):
Shinobu Saito, Yukako Iimura, Aaron K. Massey, and Annie I. Antón, "How Much Undocumented Knowledge is there in Agile Software Development?: Case Study on Industrial Project Using Issue Tracking System and Version Control System," Proceeding of the 25th IEEE International Requirements Engineering Conference (RE 2017), Sep. 4-8, 2017, Lisbon, Portugal, pp. 194-203. (2017.9)
書籍:
(分担執筆)「ビジネスルールを可視化する要件定義の図解術」,NTTソフトウェアイノベーションセンタ,NTTデータ(著),日経BP(2015)