母として、国際人として、グローバルで最前線の研究に携わる

NTT宇宙環境エネルギー研究所の「レジリエント環境適応研究プロジェクト」における「ESG経営科学技術グループ」では、気候変動や社会現象の未来予測技術によって、企業や社会のウェルビーイングを模索しています。2022年度からレジリエント環境適応研究プロジェクト補佐(兼)ESG経営科学技術グループ主任研究員を務める張暁曦氏は、独自の経済分析手法を用いた経済・社会の未来予測手法の研究開発に取組んでいます。女性として、母として、研究者として生きる張氏に、研究とライフを両立させる方法をうかがいました。
※所属は取材当時のものです。

NTT宇宙環境エネルギー研究所では、社会課題の解決に向け多様な人材を募集しています。

張 暁曦(ちょう ぎょうぎ)

NTT宇宙環境エネルギー研究所 レジリエント環境適応研究プロジェクト補佐 兼 ESG経営科学技術グループ主任研究員
中国遼寧省出身。高校卒業後に来日、東京工業大学工学部、東京工業大学大学院社会理工学研究科を修了(工学修士)。2009年にNTT入社後、通信設備の故障リスク評価に関する研究開発に従事。2015年より脱炭素社会に向けたICT利用の効果・環境影響評価の研究とITU-Tにおける国際標準化活動に携わったのち、現在はプロジェクト補佐を務めながら、環境課題を含めた企業のサステナブル経営に資する未来予測技術を研究する。

1. 変化に適応する、しなやかな社会を未来予測技術でつくる


現在の研究について教えてください。

この世界は日々の変化にあふれています。良い変化もありますが、悪い変化もありますよね。
私は、AIや高度なコンピューターの力を利用した人間社会と環境影響の未来予測技術を研究して、企業のESG経営に関する中長期的な戦略立案に役に立ちたいと考えています。それを通して、未来のさまざまな変化にしなやかに対応できる社会の実現への貢献をめざしています。

これまで携わってきた研究について教えてください。

震災後から、環境や社会に負荷を与えない持続可能でサステナブルな社会の実現をめざす、エネルギーマネジメント技術およびグリーン・インフラ技術の研究開発に特に関心を持つようになりました。またそのなかで、社会インフラを担う通信設備における落雷被害予測の研究開発に取組んでいました。

その後は、ICT利用による環境負荷削減への貢献を評価するための手法開発にも取組んできました。社会では、オンラインショッピングや在宅勤務に必要なリモート会議など、さまざまなICTが活用されています。独自の経済分析手法と併せて分析することで、ICTによってどれだけ環境負荷を低減できるのかを、マクロな視点で理解できるようにしました。この評価手法は現在、国際標準としても採用されています。

さらに、近年は気候変動問題や世界規模のパンデミックの発生などによって、企業が持続的な成長を実現するために必要な、ESG課題(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス:企業統治)への対応などを考慮した、グローバルかつ長期的視点での経営戦略やアクションが重要になってきました。私たちのグループはESGに関して中長期を見据えた経営戦略の立案を支援するため、人間社会と環境影響の未来を科学的に予測するESG経営科学技術の確立をめざしています。そのなかで、私はこれまでの経験を活かし、グローバルの情報の自動分析手法、および分析から得られた情報に基づいた経済や社会の長期未来予測を可能とする手法の研究開発に取組んでいます。

2. 研究と育児を両立させる


研究者になった経緯を教えてください。

私は中国の東北地方で生まれました。この地域は冬が非常に寒く、石炭で暖房を行うため、大気汚染が社会問題になっていました。そうした社会を目の当たりにしてきたからこそ、環境問題に関心を持ち、日本の大学へ進んで環境問題について研究したいと思うようになりました。研究者になろうと決意したのは、ちょうど京都議定書が発効された頃でしたね。

研究の魅力、研究のやりがいについて教えてください。

未知のことを解き明かせることが研究の魅力だと思っています。また、未知の探求に携われることは、私にとってのやりがいにつながっています。

どのように子育てと研究を両立させてきたのでしょうか? また、NTT宇宙環境エネルギー研究所の環境はどうでしたか?

2022年7月から、NTTグループに「リモートワークスタンダード」が導入されました。フレキシブルに在宅勤務ができる制度です。

これにより、在宅勤務がメインになり、必要に応じて出社するというワークスタイルに変わりました。この制度は、子育て中の社員にとって非常にありがたい制度だと思っています。
私には子どもが2人いますが、それぞれ保育園の送り迎えやイベントなどがあります。かつての制度では、仕事か子どもかのどちらかを諦めざるを得なかったこともありましたが、リモートワークスタンダードを活用することで、仕事をフレキシブルに中断・再開することができます。

また週に1、2回は研究所で顔合わせをするなどして、チームワークのバランスもとっています。リモートワークスタンダードによって、研究のクオリティを落とさず、子育てを両立させることができるようになりました。

女性研究者として生きていく上で大切にしていること、問題だと感じていることは何でしょうか?

二児の母として、いかに「ライフ」を大切にしつつ、キャリアも大切にできるかが重要だと感じています。NTT宇宙環境エネルギー研究所の女性の比率は年々増えており、現在は3割程度です。今後は、私自身も若い女性研究者のロールモデルとして頑張っていきたいと思っています。

どのようにすれば女性研究者は増えていくのでしょうか?

やはり、障壁が取り除かれるべきだと思います。たとえば、リモートワークができることで、これまで子育てなどを理由に諦めなければならなかったことを、諦めなくて済むようになりました。このように、女性にとって働きやすくするために取り除かれるべき障壁は何かを考え、具体的に制度を設計していくことが大切だと感じます。

多様性に基づく仕事の不安を軽減するサポート役「ダイバーシティカウンシル」として、そうした活動を行われているのでしょうか。

ダイバーシティカウンシルの仕事は、いってみれば「ダイバーシティを向上させ、推進すること」です。女性研究者に関しては、悩みを相談できる人が近くにいること、そしてロールモデルが身近にいることが大事だと感じます。

現在は若い女性研究者が増えていますが、私が入所した当時は女性研究者が少なく、1割程度でした。そうした状況では周囲に子育てをしながら精力的に研究もしているロールモデルになる人が少なく、心細かったことを覚えています。さらに、出産に関連したことなどは女性特有でもありますから、悩んでしまう人もいると思います。
そこでダイバーシティカウンシルの活動では、女性研究者が気楽に入れるコミュニティや、外国籍社員同士で交流できる場をつくり、さまざまな情報交換を行える環境整備を進めています。

外国籍社員にはどのようなコミュニティがあるのでしょう?

自分の生まれ育った国から離れて暮らす外国籍社員にとっても、すぐに相談できる人が近くにいることは重要だと思います。現在は外国籍社員の情報交換の場をオンラインでつくって運営するほか、コミュニティづくりも進めています。

3. テクノロジーで未来に先回りし、創造する


今後の研究者としての目標について教えてください。

野望としては、世界的に知られる研究者になりたいと思っています。現在はESG分野をメインに、経済分析手法などを活用した未来予測を研究していますが、今後はこれらの予測モデルをNTTのDTC(デジタル・ツイン・コンピューティング)を活用して連成させ、より高精度な未来予測を可能にしていければと思っています。

(画像出典:NTT技術ジャーナル『宇宙、環境、エネルギー分野における革新的技術への取り組み』レジリエント環境適応研究プロジェクト)

現在NTT宇宙環境エネルギー研究所では、地球環境未来予測技術と人間社会・環境影響の未来を予測するESG経営科学技術の研究開発を進めています。将来的には、DTCを活用して人間活動モデルと、地球環境モデルなどを連成させ、地球環境と人間活動の相互の影響を加味した未来予測を可能とし、プロアクティブに社会・自然環境の変化に適応していくことをめざしていきます。

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

好奇心を大切に、自分のめざしていることに邁進して欲しいと思いますし、そうした人と一緒に働きたいと思っています。従来の環境問題への対応は、「いかに影響を最小化するか」でしたが、現代の未来予測技術を使えば、先回りして悪い未来にならないようにするための創造も可能です。ともに未来をつくる新しい研究者の参加を待っています。

日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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