更新日:2020/03/01
中島 和秀(なかじま かずひで)†1/ 宮本 裕(みやもと ゆたか)†2/ 野坂 秀之(のさか ひでゆき)†3/ 石川 光映(いしかわ みつてる)†4
NTTアクセスサービスシステム研究所†1/ NTT未来ねっと研究所†2/ NTT先端集積デバイス研究所†3/ NTTデバイスイノベーションセンタ†4
データ通信容量は年率数10%の割合で増加し続けており、5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)の本格導入に伴い今後も指数関数的に増大していくと考えられます。2020年代の後半には現在利用している光ファイバ(SMF: Single-Mode Fiber)の容量限界が顕在化すると懸念されており、従来の波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multi-plexing)に加え、新たに空間分割多重(SDM: Space Division Multi-plexing)を併用することで、現在の容量限界を克服しようとする研究を推進しています(1)。本稿では、SDM伝送用の光ファイバ技術と、毎秒テラ(1012)ビットにおよぶ高速光伝送技術を用いた、超大容量伝送技術の研究について紹介します。
図1に示すように、既存のSMFの容量限界を超えるためのSDM光ファイバは、コアおよびモード(光の種類)数を複数化することで実現でき、一般に、コア多重を用いるタイプをマルチコア光ファイバ(MCF: Multi-Core Fiber)、モード多重を利用するタイプを数モード光ファイバ(FMF: Few-Mode Fiber)と呼びます。さらに、N個のコアとM個のモードを併用した数モード・マルチコア光ファイバ(FM-MCF)では、光ファイバ1心の伝送容量をN×M倍にまで拡張できると考えられます。
図2(a)の断面写真に示すように、既存SMFと同じ細さ(直径125 μm)で製造可能な標準クラッド径内に4つのコアを持つMCFを実現しました。直径を既存SMFと等しくしたことにより、現在のケーブル・コネクタ技術の流用が容易になるだけでなく、本MCFの各コアは既存SMFとの完全互換を有するため、現用光伝送システムとの整合性も向上でき、実用的であると考えられます。実際に、各々のコアの光学的な性能を既存のSMFと同一としつつ、コア間の漏れ込み(クロストーク)を十分に低減した100 km長の4コアファイバを共通の仕様でマルチベンダで試作し、毎秒100テラビット以上の伝送容量を300 km以上にわたり光増幅中継伝送する原理実験に成功しています(2)。NTT R&Dフォーラム2019では、これらの技術をベースとした4コアファイバを用いた動態展示を行いました。
次に、マルチコアファイバの各コアをマルチモードとしたFM-MCFを伝送路とすることで、将来的に空間多重数を100倍以上に拡大できる可能性についての研究例を図2(b)に示します。横軸がコア数×モード数で得られる空間チャネル数を、縦軸が既存SMFを基準とした相対的な空間多重密度を表します。図中の丸、四角、および三角のプロットは、各コアで伝搬可能なモード数を表し、それぞれ3、6、および10モードに対応します。これまでに、6モードを使用した検討例として、42(7コア×6モード)、および114(19コア×6モード)の空間チャネル数を実現しました(3)。しかし、これらのFM-MCFにおける相対密度は既存SMFの約50倍強にとどまっていました。そこで私たちは、1コアのモード数を10に拡張し、12コア×10モードで世界最高の120の空間チャネル数を実現すると同時に、相対密度も100を上回る特性を実現しました(4)。これは、コア多重とモード多重のベストミックスにより、空間多重数と空間利用効率の両面で、既存SMFの100倍のポテンシャルが実現できることを世界で初めて実証した研究成果です。上述したFM-MCFシステムの実現に向けては、FM-MCFの直径を既存SMFの約1.5倍程度(200 μm前後)に拡大する必要があり、太径光ファイバに対応可能な製造性の向上やケーブル化に向けた技術検討が必要です。また、モード多重された信号を受信側で安定にモード分離する大規模デジタル信号処理の技術検討も合わせて進めていきます。
光通信の大容量化を経済的に実現するには、1波長当りのチャネル容量を拡大することが重要となり、シンボル速度の高速化や高次多値デジタル変復調技術の適用が不可欠となります。 1テラビット級光伝送に必要な超高速光送受信部の要素技術を図3に示します。…