更新日:2020/01/01
※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。
細田 智久(ほそだ ともひさ)†1/松野 恭士(まつの やすし)†1/望月 崇由(もちづき たかよし)†1/加藤 英男(かとう ひでお)†1/家保 具太(いえやす ともた)†1/久田 正樹(ひさだ まさき)†2/堀田 健太郎(ほった けんたろう)†3/坂井田 規夫(さかいだ のりお)†4
NTT研究企画部門†1/NTTサービスイノベーション総合研究所†2/NTT情報ネットワーク総合研究所†3/NTT先端技術総合研究所†4
NTTグループは、お客さまに選ばれ続ける“バリューパートナー”として、社会的課題解決に向け取り組んでいます。本年5月にフォトニクス技術をベースとし大容量、低遅延、低消費電力により持続的成長を支える情報流通基盤をめざす「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想を発表しました。その構想の下、日々取り組んできた最新の研究成果について、本年度は「What’s IOWN? - Change the World」をコンセプトに講演、展示を通じて分かりやすく紹介しました。
11月13日の基調講演では、澤田純 NTT代表取締役社長が、「IOWNの時代へ」と題して、欧州で確立した経済拡大型の社会に対する江戸時代の循環型の社会を一例として提示し、現代社会で顕在化している文明や思想の違いによる社会の分断を新たなイノベーションでつないでいくということが、NTTのめざす社会であるという考えを示しました。今後、持続可能な成長を続けていくためには消費電力の増大が技術的な課題となるとし、NTTが開発を進めている超低消費エネルギーの光電融合技術をIOWNの技術的な基本として「オールフォトニクス・ネットワーク」の研究開発を進め、将来的には量子通信や量子暗号の実現といった究極のネットワークの実現に向けた基盤となるとの考えを述べました。また、「デジタルツインコンピューティング」の進展に伴いサイバー世界の中でのインタラクションを実現し、さらに新たなサイバー空間とリアルな空間が連動する中で、社会制度や、生きがい・喜び、倫理や責任がどのように実現されていくのかという、新たな世界観の構築に向けた京都大学との共同検討を推進していくと述べました。また、ICTリソースを自動的に連携し、自律化・自己進化をめざす「コグニティブ・ファウンデーション」について、ラスベガス市でのSmart Cityでの取り組みを紹介しました。
最後に、コミュニケーションの未来をめざし、NTT、インテル、ソニーの3社で設立を表明した、光電融合技術を活用したフォトニクス関連研究開発などを推進する国際的なフォーラム「IOWN Global Forum」を紹介し、すでに海外を中心に65社からの応募があることを示し、「スマートワールド」の実現に向けた事業での取り組みを含めて、パートナーの皆様に向けて参加を呼びかけ、講演を終えました(写真1)。
続いて、川添雄彦 NTT 取締役 研究企画部門長により、「What’s IOWN? - Change the World」と題して、 これまで以上に膨大な情報処理を支え、従来技術の限界、主には消費電力の壁を超える変革をもたらす、革新的な情報処理基盤をめざすというIOWNのビジョンを示しました。IOWNの構成要素として、情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上を実現する「オールフォトニクス・ネットワーク」、サービス、アプリケーションの新しい世界を切り拓く「デジタルツインコンピューティング」、ICTリソースの最適な調和を可能とする「コグニティブ・ファウンデーション」とし、さらに、IOWNにおける無線ネットワーク技術について、陸、海、空、そして宇宙と、あらゆる場所においてIOWNの無線ネットワークでつながる世界「Connected everywhere」をめざし、世界最高レベルの大容量無線伝送技術や海中での無線通信技術、NTTとJAXAの共同研究による宇宙通信技術の取り組みを紹介しました。また、「IOWNが創る世界」として、北海道大学、岩見沢市とともに最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用による世界トップレベルのスマート農業の実現に向けた産官学連携での具体的な取り組みを紹介しました。講演の締めくくりに、地球環境を守り、持続的な発展を続けていくために、1カ所にとどまることなく積極的に新たな技術革新をもって人類の福祉と繁栄をめざすというNTT R&Dの決意を表明しました。
2019年度は、11月14日に2つ、11月15日に4つの特別セッションを開催しました。14日には、まず、五味和洋 NTT Research, Inc. 代表取締役社長が「Upgrade Reality 〜Reality in IOWN Concept〜」と題し、NTTの研究開発のグローバル化を担うNTT Research, Inc. が考えるイノベーション戦略とIOWN構想におけるポジショニングを紹介しました。続けて、各研究所の概要説明として、暗号情報理論研究所(CIS Labs)の岡本龍明所長から、世界一の暗号研究所をつくるという目標に向け、暗号理論とブロックチェーンの領域でのドリームチームの実現をめざし、トップの研究者が集まっていると報告し、NTTセキュアプラットフォーム研究所とのコラボレーションを進めていくことを表明しました。次に、生体情報処理研究所(MEI Labs)の友池仁暢所長からは、個人の特性に即した診断やヘルスケアを実現する精密医療の実現に向けて、患者を中心としながら、情報学的な観点からAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、Data科学を健康や疾患の研究に応用していくことを示しました。次に、量子計算科学研究所(PHI Labs)の山本喜久所長から、量子力学の原理と脳型情報処理の原理を光で融合することをめざした取り組みを紹介しました。2つの原理の関連性を解明していくことにより、認識、意識、決断といった人間の高度な情報処理を明らかにしていくと述べました。最後に、五味社長をモデレータに、CIS Labsの岡本所長、MEI Labsの友池所長、PHI Labsの加古敏副所長をパネリストにパネルディスカッションを実施しました(写真2)。パネルディスカッションでは、トップレベルの人材、学際的な環境、意欲の高い人材といったシリコンバレーならではの優位点やNTTの伝統を踏まえて、米国でさらに高いレベルに引き上げていくという議論をしました。
翌日には、北海道大学大学院 農学研究院 基盤研究部門 生物環境工学分野の野口伸教授より、「Society 5.0に向けたスマート農業」と題し、NTTグループ、北海道大学、岩見沢市と締結したスマート農業の実現に向けた産官学連携協定における、最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用によるスマート農業の実現に向けた取り組みを紹介しました(写真3)。続いて、川村龍太郎 NTTサービスイノベーション総合研究所所長より、「ヒトと社会のデジタル化世界-デジタルツインコンピューティング-」と題し、モノやヒトを取り巻くデジタル化の加速によって、今後の世界がどう変化していくのかを想像し、それがどのような重要技術によって可能となるかについて講演しました。伊藤新 NTT情報ネットワーク総合研究所所長からは、「2030(Beyond2020)を見据えた革新的ネットワーク」と題して、IOWN構想におけるNTT情報ネットワーク総合研究所の取り組みと最新の研究事例を紹介しました。最後に寒川哲臣 NTT先端技術総合研究所所長は、「オールフォトニクス・ネットワークを支える基礎研究」と題し、超低消費電力で高速動作を可能とする光電融合素子、大容量光伝送を支える革新的フォトニックデバイス、光通信技術を用いた新型物理コンピュータ「LASOLV®」、次世代周波数・時間基準インフラ「光格子時計ネットワーク」の紹介を行いました。
これらの講演の詳細は、本号に掲載された特集記事をご参照ください。
以上の講演によりNTT R&DやNTTグループの取り組みを紹介し、聴講されたお客さまからは好評をいただきました。
今回は、7つの展示テーマ「[特別カテゴリ]IOWN for Smart World」「メディア・デバイス/ロボティクス」「ネットワーク」「AI」「データ活用・管理」「セキュリティ」「基礎研究」を掲げ、106件の最新の研究開発成果を紹介しました。また、NTTグループで取り組んでいる技術やパートナー企業とのコラボレーション成果、さらには「Action for 2020 and Beyond」や「ICTソリューションサービスのSDGs関連付け評価」など展示テーマを超えた取り組みも展示し、基礎研究分野から商用化に至った技術まで幅広く紹介しました。
各研究開発の成果を効果的に見ていただくために、展示テーマを主体とした展示会場だけでなく、内容により個室や屋外での展示に加え、特別カテゴリとして「IOWN for Smart World」の取り組みを紹介する展示会場も設置しました。これらの会場を中心に、趣向を凝らしたデモンストレーションや展示を来場者の方にご覧いただきました(写真4)。
人と共存・共創することによって生活を豊かにし、新たな価値創造を実現するNTTグループのAI関連技術「corevo®」について、「人を支えるAI」「社会を支えるAI」「AI基盤技術」の3つのサブカテゴリに分けて紹介しました。
ポストムーア時代の革新的情報処理技術、医療の高度化や先端素材に関する研究開発など、社会に変革をもたらす基礎研究を紹介しました。
印刷物が錯覚で動いて見える「ダンシングペーパー」、存在を意識させないデバイスをめざしている「透ける電池」、人の眼には見えない光の情報をAIにとどける「光メタサーフェイス」、難問を桁違いの性能で解く「LASOLV®向けミドルウェア技術」など、未来を見据え新原理・新概念の創出をめざした最先端の基礎研究を紹介しました(写真10)。
本年は海外からのお客さまも含め1万7000名を超えるお客さまをお迎えすることができました。IOWN構想発表後、初めてのNTT R&Dフォーラムとしてグループ社員の皆様、お客さまからの期待感の高まりがあるものと考えています。フォーラムの現場やアンケート、実施後のお問合せなど、NTT R&Dに対する多くの期待の言葉をいただきました。皆様からいただいたNTT R&Dに対する強く、大きなご期待にこたえられるよう、基礎研究並びに新技術の開発や展開により一層努力していきます。
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