更新日:2019/03/01

    将来の大容量通信インフラを支える超高速通信技術
    NTT未来ねっと研究所
    NTT先端集積デバイス研究所

    NTT技術ジャーナル2019年3月号:特集「将来の大容量通信インフラを支える超高速通信技術」より

    宮本 裕(みやもと ゆたか)†1/ 吉野 修一(よしの しゅういち) 所長†1/ 岡田 顕(おかだ あきら) 所長†2

    NTT未来ねっと研究所†1/ NTT先端集積デバイス研究所†2

    大容量通信ネットワークの発展と超高速通信技術の適用領域

    近年では、PCやスマートフォン等を通じた検索、動画視聴、電子決裁など日常生活になくてはならない通信サービスが世界中に普及し、それを支える大容量通信ネットワークは私たちの生活において欠くことのできない基盤になっています。モバイル通信では、第5世代移動通信システム(5G)の2019年度からの商用化開始に向けて、最大20 Gbit/sに至る広帯域の通信、自動運転や工場の自動化等をはじめとする低遅延の通信の実現に向けた精力的な取り組みが進んでいます。また、半導体・センサ技術の飛躍的な進歩によるIoT(Internet of Things)技術の普及により、さまざまな端末からの膨大なデータを蓄積し、機械学習やAI(人工知能)といった新技術により、従来では不可能であったきめ細かい気象予測や予防医療等の新しいアプリケーションも期待されています。これからの通信ネットワークは、そのような新たなアプリケーションの創造を支え、これまでよりさらに私たちの身近な社会基盤として、空気のようになくてはならないインフラとして、ますます重要性が高くなると考えられます。
    通信ネットワークの大容量化・高度化を支える超高速通信技術の適用領域を図1に示します。無線通信を用いた超高速通信技術としては、コアネットワーク用の固定マイクロ波通信に利用するデジタル変復調技術が飛躍的な発展を遂げ、光ファイバ通信が本格的な実用化が始まる1980年代まで、長距離コアネットワークを支えていました(1)。これらの技術はさらなる発展を遂げ、有線ケーブルの敷設が難しい区間の経済的なリンクシステムとして現在でも発展を続けています。また、無線LANや携帯電話を中心とする無線・移動体通信の大容量化を支える基盤技術は、この四半世紀に飛躍的な発展を遂げ、現在では、PCやスマートフォン(4G)等によるモバイルブロードバンドサービスとして1Gbit/sを超えるスループットの無線アクセスが世界中で普及しています。さらには、次世代の5Gにおいては、ミリ波等の新しい搬送波周波帯の特徴を活かした無線アクセスの高速化に加えて、自動運転や工場の自動化等の実現を想定し、高い信頼性と低遅延性の両立も求められています。
    一方、光ファイバ通信を用いた超高速通信技術は、1980年代から実用化が始まり、この四半世紀で飛躍的な発展を遂げました。現在では、1万km以上の大陸間横断中継システム、国内の長距離コアネットワーク、メトロネットワーク、アクセスネットワークに至るまで、広く普及しています。最近では、データセンタ(DC)間ネットワーク、DC内ネットワークや、携帯電話の基地局を結ぶバックホール等の大容量化にもなくてはならない技術となっています。これまで、光ファイバ通信システムでは、もっぱら1本の光ファイバに光の通り道(コア)が1つで、かつ導波モードが1つになるよう設計されたシングルモードファイバ(SMF)が、基本の伝送媒体として用いられてきました。現在ではチャネル(波長)当り100 Gbit/s容量の100チャネル相当の波長多重伝送により、ファイバ1本当り10 Tbit/sを超える長距離ネットワークが実用化されています(2)。また、DC間ネットワークにおいても、近年では200 Gbit/s級のチャネル容量を持つ低電力かつ小型な超高速光通信の実用化が進んでいます(3)

    図1 超高速通信技術の適用領域
    図1 超高速通信技術の適用領域

    超高速通信技術のアプローチと技術課題

    次に、無線通信、光ファイバ通信に共通した超高速通信技術のアプローチと技術課題について紹介します。システムの通信容量Cは、よく知られたシャノンの定理によって以下の式によって与えられます。…

    ■参考文献

    1. (1)小檜山・小牧:“64/256QAMディジタルマイクロ波伝送方式、”信学誌、Vol.68, No.8, pp.889-895, 1985。
    2. (2)鈴木・宮本・富澤・坂野・村田・美野・柴山・渋谷・福知・尾中・星田・小牧・水落・久保・宮田・神尾:“光通信ネットワークの大容量化に向けたディジタルコヒーレント信号処理技術の研究開発、”信学誌、Vol.95, No.12, pp.1100-1116, 2012。
    3. (3)木坂・富澤・宮本:“Beyond 100 G光トランスポート用デジタル信号処理回路(DSP)、”NTT技術ジャーナル、Vol.28, No.7, pp.10-14, 2016。

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