概要
単一光子検出アバランシェダイオード(SPAD)は、極低温の冷却機構を必要としない単一光子検出器であり、量子情報通信の実用化に有望な技術といえます。
NTT研究所独自の、アバランシェダイオードのリーク電流を減らす素子構造を適用することで、世界最小レベルのノイズで動作可能なSPADを実現しました。
背景・従来課題
【NTTでのこれまでの検討】
・NTTでは25Gbaud級、 50Gbaud級の通信用受光素子検討に取り組んでおり、現在実用化に向けて技術開発を進めています。
・NTTは通信用アバランシェフォトダイオードに重要なリーク電流抑制の高い技術を持っており、本技術を単一光子検出の分野にも応用した研究を立ち上げました。
【単一光子検出アバランシェダイオード】
・近赤外光(1.3~1.55um)を用いた量子情報通信等の領域では、高精度な単一光子検出技術が重要です。
・実験室レベルの量子情報通信の基礎実験では超伝導を用いるため、-273℃の極低温冷却を行う大型設備が必要となり、実用化に課題がありました。
・単一光子検出アバランシェダイオード(SPAD)は、室温付近でも動作が可能な検出器であり、量子情報通信の実用化に有望な技術といえます。
・SPADはこれまで素子のリーク電流に起因したノイズが大きく、S/Nを抑制することが課題でした。
本技術のアドバンテージ
- NTT独自の素子構造によって素子のリークを抑制できることを実証しました。
- 世界最小レベルのノイズで動作可能なSPADを実現しました。
利用シーン
- 量子情報通信システムにおいて、室温~電子冷却程度の軽微な冷却機構での単一光子検出を行います。
解説図表
用語解説
アバランシェフォトダイオード
アバランシェ増倍(加速された電子あるいはホールが、半導体原子と衝突して電子やホールを新たに生成する過程を繰り返すこと)と呼ばれる現象を利用した、増倍利得機能を有する受光素子です。広く用いられているPINダイオードと比較して受光感度を改善することができるため、感度要求が厳しい通信システムに利用されます。
baud(読み:ボー)
一秒あたりの信号変調速度を表します。Gbaud(ギガボー)の場合、一秒間に10億回の信号変調が行われます。
単一光子検出アバランシェダイオード(SPAD)
1光子レベルの微弱な光を高感度に検出するデバイスです。一般的な単一光子検出器は超伝導を活用しており、極低温設備が必要となり、通信用途の実用化は極めて困難と考えられています。SPADはそれらの超伝導デバイスと比較すると検出効率が低く、ノイズが大きいという課題がありますが、室温付近での動作が可能です。
暗計数
1個の光子を観測可能な検出器は、非常に増幅率が高いため、光に起因しない入力(宇宙船棋院のものや熱雑音など)でも場合によっては増幅して"光子"信号として出力します。つまり光がない"暗い"場合でも"光子"検出されることがあり、これを暗計数と呼びます。1秒間当たりの暗計数(cps)を暗計数率と呼びます。
担当部署
先端集積デバイス研究所 機能材料研究部