マルチコア光ファイバ技術
従来の光ファイバの性能限界を打破し超大容量光通信を実現する次世代光ファイバ

技術背景・課題
光通信の伝送容量は年率数十%で増加しており、近年ではデジタルコヒーレント技術による更なる大容量化が実現されていますが、汎用光ファイバを用いての光通信は100 Tb/s程度が限界と考えられており、2020年代後半におけるペタビット級通信基盤の実現のために飛躍的に伝送容量を拡大可能な次世代光ファイバ技術が必要とされています(図1)。そこで、私たちは、IOWN構想の大容量光伝送基盤を実現する要素技術の1つとしてマルチコア光ファイバ(MCF)の研究開発を進めています。

技術の概要・特徴・内容
我々は、IOWN構想の大容量光伝送基盤を実現する要素技術の1つとしてMCFの研究開発を進めており、従来の光ファイバの容量限界が顕在化すると考えられる2020年代後半での実用導入を目指し、従来と同じ細さの光ファイバ断面内に、4個の光の通り道を多重した4コアMCF及び伝送路の建設・保守・運用に係る周辺技術の研究開発を推進しています。また、2030年後半でのペタビット級光伝送路のために、光の多重度(4コアMCFの場合は4)を10以上に拡張する新たな実現技術の探索も進めており、各コア内に複数の種類の光(モード)が伝搬する数モードコアMCFや、コア間の距離を小さくし、コア間で光信号が結合するように設計された結合型MCFの研究開発を進め、容量需要の拡大に対して持続的に進化可能な光通信線路技術の確立を目指しています(図2)。

技術目標・成果・効果
2020年代後半での実用導入を目指すMCFとして検討している4コアファイバは、従来の光ファイバと同じ細さを有していること、及び各コアを独立に利用可能である非結合型と呼ばれる方式で設計されているため、従来の光ファイバ製造・接続・ケーブル及び送受信技術との整合性が高く、これまで蓄積・進展してきた光通信技術との併用、既存ネットワークとの相互接続性が担保しやすいという利点があります。特に、各コアが従来の光ファイバと同等の伝搬特性を有し、十分低いコア間クロストークを実現することが重要であり、それを実現するためのMCF構造設計領域を明確化しました。一方で、実際に4コアMCF光伝送路を商用導入するためには、送受信機との接続を含めた伝送リンクの構築・保守・運用に関しMCF構造に起因して生じる課題の解決が必要です。例えば、MCFは光ファイバ断面内の中心以外の場所にコアが存在するため、MCF同士を接続するためには回転方向の調心を行い対応する4個のコアの位置を揃えることが必須となります。また、既存の送受信機との接続を想定すると、MCFの各コアを従来の光ファイバに分岐するファンイン・ファンアウト(FIFO)と呼ばれる光部品が不可欠です。我々は、4コアMCFに対応した接続・分岐技術、並びにそれらを用いたケーブル接続・分岐技術、局内のMCF収容・配線技術などの周辺技術を含み4コアMCF伝送路技術を確立しました。例えば、融着接続する際に対向する2本の4コアMCFの側面画像を観測・解析することで4つのコアの位置を特定し、自動で対向するコアの位置を回転調心する側面調心技術や石英系PLC(Planar Lightwave Circuit)導波路を積層した独自の2層構造を用い、1本の4コアMCFと1個のコアを有する既存光ファイバ4本との合分岐を実現するFIFO技術を確立しました。その他、MCFを実装したケーブルや、ケーブル配線・接続技術なども網羅しており、これら成果により4コアMCF伝送路の実用展開の加速が期待されます(図3)。

2030年代後半に向けての10を超える多重度を有する光ファイバとして、各コアに複数のモードが伝搬するコア非結合型数モードMCFや、コア間の距離が小さく、コア間で信号が混信することを前提に設計されるコア結合型MCFの検討を進めています(図4)。これまで、従来の光ファイバと同じ細さを維持しつつ、3モードが伝搬するコアを4つ配置したコア非結合型3モード4コアや、高密度に12個のコアを配置した結合型12コアMCFなど、10を超える多重度を有する光ファイバを実証し研究開発を世界的にリードしています。これらのMCFでは、複数のモードを活用したモード多重という概念を用いているため、光の多重度を高められる一方で、従来の光ファイバ通信路にはない特殊な信号処理が受信器で必要となり、信号処理負荷の低減のために多重された信号の伝搬遅延差の低減など新たな設計事項が生じます。我々は、コアの屈折率分布の最適化やモード間結合の積極利用などを用いて多重度の拡大と良好な光学特性の両立を目指しています。近年では、フィールド敷設ケーブルを用いた伝送実験など、これらの光ファイバで構成された伝送リンクの性能検証も行われており、4コアMCFに続く次世代光ファイバとして期待されます。

想定される適用分野・PoC
実装可能な光ファイバ心線数に空間制限を有する海底光ケーブルや、使用光ファイバ心線数が指数関数的に増大し続けているデータセンタネットワークへの適用が期待されます(図5)。海底光ケーブルに実装可能な光ファイバの本数は数十本が限界で、最新の光海底システムでは既に収容可能な光ファイバ心線数の上限に達しています。また、データセンタネットワークでは数千本の光ファイバを実装した光ケーブルに対する需要が顕在化していますが、実装光ファイバ数の増大とともに光ケーブルの直径も拡大傾向にあり、部分的に地下管路でこのようなケーブルを敷設することが困難となるケースが生じる可能性があります。このような領域にMCFを適用することで、陸上システムの心線需要、並びに海底システムの大容量化需要に柔軟に対応することが可能と考えられます。

今後の展望
増え続ける通信需要に対応するための超大容量通信を実現する伝送媒体としての、マルチコア光ファイバ技術を紹介しました。今後も、通信路を構築するための周辺技術を含みMCF技術の研究開発を進め、4コアMCF線路の実用化並びに将来の10倍以上の性能を有するMCF線路構築技術の確立を目指します。