IOWNを支える技術解説

オープンコンバージドトランスポンダ スイッチポンダ技術

APN利用促進に向けたAPN-T搭載スイッチポンダの高度化開発

「オープンコンバージドトランスポンダ スイッチポンダ技術」の「オープン」は、IOWN 構想を共創する世界的パートナー企業・団体と共に定めたオープン技術仕様に基づくネットワーク装置を、どのベンダでも提供でき、その入手方法も選択可能であることを指します。「コンバージド」は IP 網や放送網など各種用途のユーザ通信機器と、APN とが協調動作または統合装置として動作することを意味しています。「トランスポンダ」は光信号の送受信をおこなう装置で、APNとの接続性を提供します。「スイッチポンダ」は、APNにおける光パスの端点となるトランシーバであるAPN-T実装によるレイヤ1の光技術と、レイヤ2/3のEthernet・IPスイッチング技術を併せ持つネットワーク装置です。つまり「オープンコンバージドトランスポンダ スイッチポンダ技術」はオープンな仕様に基づいた様々なベンダ装置で、APNとユーザ装置が協調動作するレイヤ2/3技術を具備したAPN-T実装技術です。APN接続性を提供する装置として、「スイッチポンダ」の他にバルク転送機能を持つ「マックスポンダ」を加えた2種類の開発をおこなっており、本記事では「スイッチポンダ」について紹介します。

技術背景・課題

デジタルコヒーレント光伝送技術のトランシーバは小型化と低消費電力化が進み、ハイエンドなスイッチやルータへの搭載が可能になってきています。スイッチやルータなどレイヤ2/3の装置に、レイヤ1の伝送機能の一部を搭載することで、装置統合による装置コスト・電力・設置スペースの低減などが期待されます。

DSPを持つトランシーバであるAPN-Tをスイッチやルータに搭載する場合、レイヤ2/3の機能はユーザネットワークとしてユーザ側の管理が想定される一方で、APNの一部であるAPN-Tの設定や監視はAPNサービス提供事業者側でおこなうことが想定されます。1台の装置に対してユーザとAPNサービス提供事業者とで異なる機能を管理するために制御範囲を分離する必要が生じますが、市中技術のみでは詳細に分離することが難しいという課題があります。

また従来の通信サービスでは光の状態変化が詳細に監視・解析できていませんでしたが、光波長を用いてお客様との接続を行うAPNサービスにおいては従来よりも高精度に光の状態変化を検知する必要があるなど、エンドツーエンドの光波長接続としての課題にも対応が必要だと考えています。

図1 APN提供時のスイッチポンダ導入イメージ

技術の概要・特徴・内容

APN-Tをスイッチに統合したスイッチポンダの場合に制御範囲の分離が必要になる課題と、APNサービスにおいて光の状態変化を高精度に検知する必要がある課題に対して、研究所ではネットワークOSのコンテナ上で「制御権限分離機能」「高頻度パフォーマンスモニタリング機能」を実現するアプリケーションを開発しています。

「制御権限分離機能」は、1台のスイッチポンダ装置に対してユーザネットワークとしてユーザが制御できる機能範囲と、APNの一部としてAPNサービス提供事業者が制御できる機能範囲を詳細に分離する機能です。制御範囲の分離によりAPN接続用のユーザ装置とAPN-Tとをスイッチポンダで統合して構築・運用することを実現する機能です。

「高頻度パフォーマンスモニタリング機能」は、高頻度で光の通信状態をモニタリングすることにより、従来に比べ高精度な故障分析を可能とする機能で、マックスポンダとスイッチポンダの両装置での実現を予定しています。APNを提供する際、従来の技術では十分な監視や故障解析ができない懸念があるため、高頻度な光の状態モニタリングによる障害の発見と高度分析を目指します。

技術目標・成果・効果

(1)制御権限分離機能

制御権限分離機能は、主にユーザとAPNサービス提供事業者とでネットワーク装置に対する設定および監視をおこなう権限を分離するための機能です。

ユーザ装置とAPN-Tとを統合していくことを考えた場合、レイヤ2/3の機能はユーザネットワークに合わせてルーティングやVLAN等の設定や監視をユーザ側でおこなう必要があります。一方でAPN-Tは使用する波長などAPN接続のための設定が必要であり、APN-Tの通信状態監視も含めてAPNサービス提供事業者側で制御する必要があります。このように、ユーザ装置とAPN-Tとを統合していくことを考えた場合、ユーザとAPNサービス提供事業者とでそれぞれで制御対象が異なるため、利用できる権限を分ける必要が生じます。

この権限を同一装置内で分離するのが制御権限分離機能です。管理アカウントを複数登録する機能や操作可能なレベルを分けられる機能は市中のネットワーク装置にも存在しますが、機能毎に違う立場(サービス利用者/サービス提供者)の管理者の制御範囲を詳細に分離する機能は市中製品にはなく、NTTならではの独自機能として開発をおこなっています。

統合された装置ではAPN-C向けインタフェースと、それとは独立したユーザ向けインタフェースを提供します。ユーザ側コントローラからはユーザ向けインタフェースを介してレイヤ2/3機能の設定や監視のみをおこないます。APN-Tの制御はネットワークOS上にコンテナアプリを開発し、APNのコントローラ機能であるAPN-Cから制御することで、APNサービス提供事業者側からのみの制御に制限します。

内部ではユーザ権限毎に設定および情報取得が可能な項目を決め、ネットワークOSで必要な機能のみにアクセスできるようコントロールすることで、制御権限の範囲を詳細に分離することを実現しています。

(2)高頻度パフォーマンスモニタリング機能

高頻度パフォーマンスモニタリング機能では、光の状態監視の頻度を上げてモニタリングをおこない、通信状態の情報精度を高めることで高度な分析を可能とする機能です。

APN-Tがビットエラーレートなど光の品質状態が変化したことを検知すると、従来15分程度の周期でおこなっていたパフォーマンス情報の監視を約10秒周期まで短くし、変化前後の状態をモニタリングします。APN-Cと連携することで光の状態変化を連続的に把握し、一時的なエラーの検出やエラー発生状況の把握、エラー前後の通信状態把握を可能とすることで、障害分析の精度向上や原因切り分けの時間短縮を目指しています。

図2 制御権限分離機能イメージ
図3 高頻度パフォーマンスモニタリング機能

想定される適用分野・PoC

EthernetやIPを利用するユーザに対してはスイッチポンダの特徴であるレイヤ2/3の機能を統合するメリットが得られます。例えば、ユーザ拠点間の大容量通信が考えられます。ユーザの集約拠点間を100Gbpsクラスの大容量で接続する際に、スイッチポンダを使用してAPNに接続することで、自社のネットワークに合わせた運用や管理を可能としながら、専用線接続用の高価な装置を用意せずにEthernetのままAPNに接続可能となります。

これらの利用形態においては、ユーザ拠点における装置台数をスイッチポンダ利用により抑制できるため、スペースや電力にかかるコストを抑制できると想定しています。

今後の展望

本技術で採用しているコンテナ技術を活用し、各種コンテナアプリを開発することで今後も様々な機能拡張が可能となります。付加価値機能の拡充、運用高度化への対応など、利用環境に合わせた進化が期待できます。

システムとしての容量拡大や、多数のAPN-T収容など性能向上と併せてスイッチポンダの利便性を更に高めたいと考えています。