IOWNを支える技術解説

All Photonics Network (APN) におけるトランスポンダ離隔配置技術

トランスポンダとラインシステムを異なるロケーションに設置するための設計・監視技術

本技術は、光波長信号の生成終端を担うトランスポンダ(APN-Tなどとも呼ばれる)と、光多重・伝送を担うラインシステム(APN-I/G、ROADM、OXCなどとも呼ばれる)とを、別々のロケーションに配置するための技術です。従来、トランスポンダとラインシステムは同一ロケーションの近接するラックに搭載することを前提としているため、監視制御のためには単純にLANケーブルで接続することで実現できました。本技術では、別ロケーションに設置したトランスポンダの監視を、光波長信号と監視制御信号とを波長多重することにより可能としました。

技術背景・課題

IOWN APNでは、お客様の手元まで、光波長信号を最小の遅延で、遅延揺らぎなく届けることを目標の1つとしています。

そのためには、光波長信号を可能な限り光のままで、電気的な信号処理をできる限り排して、お客様ビルやデータセンタ間を接続することが必要になります。

一方、従来から光波長信号を長距離伝送するためには、波長多重技術を用いた光伝送装置が用いられてきました。しかし、光伝送装置を用いてIOWN APNを実現しようとすると、トランスポンダとラインシステムを同一ロケーションに設置しなければならないという技術的制約から、NTT局舎からお客様ロケーションまでをメディコン等の他の機器を用いて中継しなければならなくなります。すなわち、光のままで接続できずに、電気的な信号処理をする追加の機器が必要となってしまうのです。

そこで、トランスポンダをラインシステムから離隔し、お客様のロケーションに設置することとし、NTT局舎とお客様ロケーションとの間の光ファイバによる光波長信号の減衰をカバーするために、1波長用の光増幅器を適用することとしました。

図1 上段に従来構成+メディコンのイラスト
下段に離隔配置構成のイラスト(簡易版)

しかし、光増幅器を用いた光波長信号の伝達だけでは、トランスポンダをお客様ロケーションに設置することはできません。お客様ロケーションに設置したトランスポンダの送受信波長や変調方式の設定や信号状態の監視などに用いる監視制御信号をNTT局舎まで引き込むことが必要になるからです。

図2 監視制御信号をユーザロケからNTTビルに引き込むイメージ

技術の概要・特徴・内容

本技術では、トランスポンダをラインシステムから分離してお客様ロケーション等に設置した際にも、トランスポンダをNTT局舎から監視制御することができる技術です。
以下の3点を特徴としています。

  1. 光波長信号と同一の光ファイバに重畳することで、監視制御用の回線を別途用意することが必要ありません。また、DCセンタ内部など電波の届きにくい場所でも利用することができます。
  2. 既存のほとんどのトランスポンダに対して適用できます。トランスポンダに対して特別なハードウェア的、ソフトウェア的な改造は不要です。
  3. 特別なハードウェア、ソフトウェアの追加なく適用できます。光伝送装置の分野で一般的に市販されている機器の組み合わせにより実現しています。

技術の詳細な解説

お客様ロケーションに設置したトランスポンダを監視制御するための制御信号を光波長信号に重畳する方式としては、A デジタル信号として制御信号を重畳する方法、B 光波長信号をアナログ的に変調する方法、C 別波長の信号として光波長信号と物理的に多重する方法などが考えられます。

Aは、イーサネットでのOAMやOTNでのGCCに類似する技術で、制御信号用の特別なフレームや、フレームの空き領域を使って制御信号を伝達する方法です。しかしながら、この方法では、両端のトランスポンダをお客様ロケーション等に設置した場合には、NTT局舎から監視制御できません。APNのネットワークにはラインシステムしかないため、光波長信号を電気的に終端し、制御信号を取り出すことができないからです。

図3 GCC/OAMのイメージ(スイッチの中で埋め込むイメージ)

Bは、高速で変調される光波長信号を、制御信号用に十分にゆっくりした速度で、再度変調することにより重畳する方法です。PONなどのアクセス系の装置で研究がなされていました。この方法では、APNのネットワーク内部での電気的な終端がなくても、光学的な分岐とLPFのみにより制御信号を取り出すことができます。

図4 AMCCのイメージ(ユーザロケでの変調+高速変調+低速変調+NTT局側の構成)

しかしながら、低速で変調を行った制御信号がAPNのネットワーク内部を通過し反対側のトランスポンダまで届いてしまうため、2つの制御信号が区別できずにまじりあってしまうこと、および光波長信号が高速化するにつれて、制御信号の低速な変調が大きなノイズとなってしまうことから課題となります。また、トランスポンダとラインシステム以外に、低速な変調を行うための専用装置の開発も必要となる点も課題でした。

そこで、Cとして、制御信号と光波長信号をそれぞれ別波長としたうえで、波長多重する方法を採用しました。制御信号がAPNのネットワークの内部を通過してしまう課題に対しては、WDMフィルタを用いて制御信号用の波長の分離を実施しています。本方式は、従来からラインシステムの内部で一般的に用いられているOSCをトランスポンダとラインシステムに適用したものになります。

図5 OSC離隔配置監視制御のイメージ

制御信号用の波長を生成し、光波長信号と多重・分離するためにそれぞれ機材が必要となりますが、いずれも市中製品として販売されている1510nm のSFP型トランシーバとWDMカプラが利用可能です。トランスポンダの監視制御ポートがSFPレセプタクルであれば、容易にSFP型トランシーバを実装できますので、配線や機器設置の面でも作業を大幅に簡略化することができます。

想定される適用分野・PoC

本技術を適用したサービスをAll-Photonics Connect powered by IOWN として、2024年12月より提供開始しています。

ニュースリリース 2024年11月18日
NTT東日本 https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20241118_01.html
NTT西日本 https://www.ntt-west.co.jp/news/2411/241118a.html
サービス紹介
NTT東日本 https://business.ntt-east.co.jp/service/koutaiikiaccess/
NTT 西日本 https://www.ntt-west.co.jp/business/solution/iown/

今後の展望

今後は、さらなるエリアカバレッジ拡大に向けて、離隔距離の延長や、開通のアジリティ向上に向けた複数光波長信号の一括離隔に向けた研究開発を実施しています。