Diversity Equity & Inclusion esports実現に向けた操作インタフェース技術
身体制約のある身体障がい者の「動く」ことにフォーカスし、障がいに応じた操作インタフェースにより障がい者と健常者が競い合える場を実現

技術背景・課題
自宅や施設など限られた空間の中で過ごすことが多い重度身体障がい者でも、社会とのつながりをもてる場としてeスポーツは期待されています。eスポーツ環境の品質向上に向けて、IOWNの低消費電力・高品質・大容量・低遅延の伝送は多大な恩恵を与えます。しかし、この恩恵を受けたIOWN時代が到来したとしても、重度身体障がい者がeスポーツ環境を快適に利用するためには、個々の障がいに合わせた操作機器のインタフェースデザインの改善が必要不可欠になります。特に頚髄損傷に伴う上肢障がい者や筋萎縮に伴う障がい者は、異なる原因であるもののジョイスティックの位置制御に負荷がかかります。加えて筋萎縮症の方々は、身体の動作範囲が限定されているため、静電ボタン(触れたら反応する装置)の配置など設置作業に手間がかかります。
技術の概要・特徴・内容
Diversity Equity & Inclusion esportsの実現に向けて、力覚操作インタフェースと筋電操作インタフェースを研究開発しています。力覚操作インタフェースでは、ジョイスティックの位置調整ではなく固定されたジョイスティックにかかるモーメント力を計測し、その力の大きさと方向に応じてパイメニューを選択することでゲームに操作命令を送るインタフェースデザインです。このとき、頚髄損傷に伴う上肢障がい者のように小さな力の制御が困難な方々には、大きな力の範囲でパイメニューを選択できるようにし、萎縮症のように大きな力の制御が困難な方々には、小さな力の範囲でパイメニューを選択できることで、普段より力むことのない操作性の実現に成功しました。また、筋電操作インタフェースでは、わずかな筋動作で発生する筋電に基づいて操作命令を送るインタフェースデザインです。ボタンに直接触れることなく、好みの姿勢で入力できる利点があります。
技術目標・成果・効果
多様性を包摂する共生社会に向けて、当事者と共に課題解決に挑む「Project Humanity」の取り組みの一環として、「重度障がい者=社会参画できない」を覆すために、社会参画の準備として、多様な人々とのつながりを広げ、かつ情報端末機器の操作性の改善に貢献するeスポーツという場に着目しています。特に、一人ひとりの障がい特性に合わせて適切なツールやリソースを提供することで、公平性も担保するような多様性と包括性のある場のeスポーツ(Diversity Equity & Inclusion eSports)が障がい者と健常者とのつながりを豊かにするというビジョンを掲げています(図1)。

ビジョンの実現に向けて、頚髄損傷に伴う上肢障がい者と筋委縮症の障がい者を対象にeスポーツ向けの操作インタフェースの研究活動をしております。頚髄損傷に伴う上肢障がい者のZancolli分類でC6レベルに相当する方々は指・手・腕の麻痺により肩を主軸とした上肢動作が行われています。肩の動作は、力を発揮しやすいもの指・手・腕が担う精緻な動作が困難になります。また、萎縮症に伴う障がい者は、筋がやせているため、発揮できる力が小さくかつ指や顎の動作に対して適切な位置でブレーキをかけるなどの精緻な動作が困難になります。このように、原因は異なりますが、位置調整が困難であるという共通点があります。加えて、萎縮症の方で、身体の末端部分の指がわずかに動作できる場合、その動作範囲にボタンを押せるように操作機材の位置調整を細かに設定することになります。このような状況を踏まえ、最初のプロトタイプとして力覚操作インタフェース(図2)と筋電操作インタフェース(図3)を研究開発しました。


力覚操作インタフェースの特徴は、ジョイスティックの位置調整ではなく、固定されたジョイスティックにかかる2種類のモーメント力(ピッチ方向・ロール方向)の強さと方向に応じてパイメニューを選択し、選択したメニュー項目の操作命令が実行されるインタフェースデザインです(図4)。このとき、メニュー選択に必要な強さと方向を操作者の特性に応じて調整することで、頚髄損傷に伴う上肢障がい者と萎縮症に伴う障がい者のそれぞれの特性に合わせることができます。2024年5月と8月にNTT西日本熊本支店と熊本eスポーツ協会が主催で実施されたeスポーツ体験会にて、脊髄性筋萎縮症をもつあそどっぐ氏に力覚操作インタフェースを利用してもらいました。結果、あそどっぐ氏からは「ジョイスティックが全然力がいらなくて動かせるのですごく楽に操作できた」という回答をいただけることに成功しました。

また、筋電操作インタフェースの特徴は、わずかな筋動作でも計測可能な筋電の反応に応じてゲームの操作命令が実行されるインタフェースデザインです。この筋電操作インタフェースは、筋電に基づくアバタ操作インタフェース技術を応用していますが、アバタ操作と異なり、ゲーム操作(図5)における入力に対する操作命令の持続時間は短めに設定することで対応しております。R&Dフォーラム2023にて展示をし、メディアに取り上げていただきました。また、2024年5月にNTT西日本熊本支店と熊本eスポーツ協会が主催で実施されたeスポーツ体験会にて、上肢の機能全廃2級の方に筋電操作インタフェースを利用してもらいました。「日常的にゲームする機会が少ない中で、ゲームができてうれしかった」という回答をいただけることに成功し、新規のターゲット層に発見にもつながりました。

本技術の発展に向けて主に3つの課題があります。一つ目は、改善した技術を多くの当事者に利用してもらうような場を定期的に計画し開催していくことです。これは、技術の認知向上だけでなく、実体験者のフィードバックは更なる技術改善につながることになり、この繰り返しが研究開発した操作インタフェースを広く利用される礎になりうるからです。現在、二つ目は、当事者(アーリーユーザ)に日常利用してもらい、インタフェースデザインの改善点や応用方法について当事者視点のフィードバックをもらいながらインタフェースデザインを改善していくことです。現在、あそどっぐ氏にコラボレータとなってもらい、検討を進めております。三つ目は、想定ユーザに広く展開していくには、日常利用にリーズナブルな操作インタフェースの実現が重要です。筋電操作インタフェースに関しては、筋電に基づくアバタ操作インタフェースに記述しております。力覚操作システムに関しては、センサ以外は3Dプリンタで構築できる利点はあるものの、センサ自体の安価に向けて技術要件の精査が必要であり、デバイスベンダーとのコラボレーションが重要と考えております。
想定される適用分野・PoC
用語集
あそどっぐ氏:難病SMAにより寝たきりの生活を送る中『世界初の寝たきり芸人』を名乗りお笑い芸人として活躍中。あそどっぐチャンネル(https://www.youtube.com/@asodog)を運営