IOWNを支える技術解説

深部体温センサ技術

ウェアラブルセンサで体の温度変化リズムを可視化して,快適な睡眠をサポートします。

皮膚の温度と熱の流れから体の深い部分の温度をセンシングする技術です。深部の温度は一日の中で上がったり下がったりするリズムを持っています。このリズムが「眠くなる」、「目が覚める」といったタイミングとも関係し、不規則な生活習慣でリズムが乱れると睡眠に問題が生じます。光暴露のタイミングでリズムがずれて「眠くなる」時間が早くなったり、「目が覚める」時間が遅くなったりすることが分かっています。本技術でリズムを可視化して、個人に合わせた睡眠環境や生活習慣を提案するサービスへの活用が期待できます。

技術背景・課題

日本人の睡眠時間は世界でも最低水準の6時間程度で、寝不足による経済損失は18兆円にのぼるとも試算されています。そのため、快適な睡眠をサポートするためのスリープテック市場は急速に成長しています。現在、脳波や心拍数などから睡眠の深さなどの質を評価する技術が出てきていますが、いつ眠ればいいのか、あるいは、どうしてこの時間に眠りにくいのかを判別する技術はありません。そこで、NTTが着目したのがヒトの深部体温に現れる体内リズムです。体内リズムは、「眠くなる」、「目が覚める」といった生活リズムに影響します。日々の生活で生じる様々な理由で体内リズムが乱れると、不眠や起床困難などの睡眠の質の低下が生じると言われています。この対策として、自身の体内リズムを把握し体内リズムを“整える“ことが重要です。深部体温は、一般的な体温とは異なり、脳をはじめとする臓器など体の深い部分の温度を指します。そのため、深部体温を直接測定するために、例えば、温度センサを直腸に挿入し、測定しなければなりません。この方法では日常的に連続測定することは困難でした。そこで、肌に貼ったセンサから間接的に体の深い部分の温度を推定する技術が提案されていますが、測定精度が低いため、その温度から体内リズムを可視化することはできませんでした。

技術の概要・特徴・内容

「皮膚温」と「熱流束」という熱の流れを測定し、体の深い部分の温度を推定します(熱流束法)。しかし、熱流束を正確に測定することは難しく、外気によってセンサの周囲に熱流束が流出してしまうため、日常生活の中で体の深い部分の温度を精度良く推定することはできませんでした。NTTでは、この熱流束の流出を抑制するためにセンサ内部に独自の金属構造を組み込んでいます。数学的根拠と物理的な根拠に基づき、最適な構造を設計する技術であるトポロジー最適化という手法を構造設計に用いることで、熱流束の流出を抑制する機能を持った構造を実現しました。

技術目標・成果・効果

深部体温センサを用いた体内リズムの可視化技術により、ユーザーの睡眠生活をサポートし、誰しもが気持ちの良い朝を迎えることができる睡眠体験の提供をめざします。

ユーザーはセンサを額に貼り付けて体の深い部分の温度変化をモニタします。睡眠中でも意識せずに測れるように通信、メモリ、バッテリなどの機能を集積化し、コイン大のサイズを実現しています。(図1)およそ1か月間、電池の交換なく連続で測ることができます。体温の24時間の周期性に着目して温度変化の予測モデルを用いた信号処理により行動や周辺環境の変化に対してロバストな測定を提供しています。

図1 睡眠時における利用イメージ

体内リズムを評価するために良く用いられる直腸温度に生じる睡眠時のリズムをNTTのセンサがよく追従し、体内リズムを評価するために必要な測温性能を確認しました。(図2)
今後、様々な条件下にて、体内リズムを取得するヒト試験を実施し、睡眠と体内リズムの関係を明らかにする研究を進める予定です。

図2 直腸温度とセンサ(NTT)の比較

想定される適用分野・PoC

近年、シフトワークや夜勤のある仕事をされている方は心と身体の調子を崩しやすいことが注目されています。体内リズムと社会的な活動時間がずれてしまっているために眠る時間に眠れないといったことが原因と考えられます(社会的時差ボケ)。この技術を活用すれば、体内リズムの変化を可視化し、体内リズムの面から理想の睡眠時間やリズムを調節するための生活習慣をアドバイスするなどソリューションへの適用を検討しています。

今後の展望

体内のリズムは、普段の食事や運動といった生活習慣、あるいは、夜間の光暴露などの影響を受けることが知られています。現在、医療機関などと連携することで、このようなひとつひとつの生活習慣が体内のリズムに与える影響を明らかにするための研究を進めています。将来的には、パーソナライズされた体内リズムのデジタルツインモデルの構築を進めて、各人に合わせた最適な生活習慣をフィードバックするシステムづくりをめざします。このようなシステムを基に、衣食住をはじめ生活を支える多くのパートナと連携することで誰もが気持ちよく過ごせるWell-being社会の実現に貢献していきます。