IOWNを支える技術解説

サービス要望に基づくリソース制御技術【Intent AIメディエータ(Mintent)】

サービスにあわせた最適なネットワーク品質を提供することでサービス利用者の満足度を向上させます。

Intent AIメディエータ(Mintent)は、サービス提供者・利用者などの様々なサービスに対する要望(Intent)を満たすサービスを実現するため、Intentを適切に定量化・抽出し、Intentを満たすようにアプリケーション、クラウドサーバ、ネットワークなどのICTリソースを横断的に最適制御する技術です。本技術により、サービス提供者・利用者などからのサービス要望に基づきICTリソースを自動的に制御できるようになり、Intentに合わせた最適な品質のネットワーク提供が可能となるとともに、複雑なネットワーク設計や運用が不要となります。

技術背景・課題

サービス提供者・利用者は、サービスに対する様々な要望をかかえています。例えば、サービス利用者は、VR映像サービスであればリアル空間にいるような視聴覚体験を実現したい、eスポーツであればパフォーマンスに影響のないスムーズな操作を実現したい、自動作業・運転ロボットであれば人間と同等、あるいはそれ以上の精度・時間で運搬作業等の必要なタスクを達成したいなど、サービスにより多様な要望が存在します。一方で、サービス提供者は、これらのユーザ要望を実現したうえで、データ伝送量を最小限に抑えることで運用コストを削減したい、クレームに迅速に対応しユーザの満足度を維持したいなどの要望があります。こうした要望をIntentと呼び、サービス提供者・利用者は、Intentが満たされるサービスの提供を期待します。しかし、既存のネットワークでは、提供されているサービスの種類に関わらず、一律に帯域や遅延などの品質要件を満たすように制御を行います。そのため、サービス個別の品質要件を満たせず、サービス提供者のIntentも満たせない可能性があります。

技術の概要・特徴・内容

NTT研究所では、サービス提供者・利用者などの様々なIntentを満たすサービスを実現するため、Intentを適切に定量化・抽出し、Intentを満たすようにアプリケーション、クラウドサーバ、ネットワークなどのICTリソースを横断的に最適制御する技術として、Intent AIメディエータ(Mintent)の研究開発に取り組んでいます(図1)。

Mintentは3つの技術から構成され、それぞれの特徴は以下の通りです。1つ目の「Intent定量化」は、サービスの提供者・利用者等が抱える曖昧なIntentに対して、定量的な指標として定義します。2つ目の「Intent抽出」は、サービス提供者がチャットボットから入力した自然言語を解析し、アプリケーション・ネットワーク・クラウドサーバなどのドメイン毎の要件を抽出します。3つ目の「マルチドメイン協調制御」は、Intentから抽出された要件を満たしつつ、物理リソース構成を考慮しながら、リソース全体の利用効率を最大化するようなリソース割当を算出します。

図1:Mintent

技術目標・成果・効果

本技術の目標としては、あらゆるサービスに対するインテントを定量化・抽出し、多様なネットワークドメインを横断的に最適制御することです。

現在の技術の到達点としては、一部の特定の領域について適用できる技術が確立しつつあります。Intentの定量化においては、自動運転の遠隔監視システムを対象に、自動運転車から伝送される監視映像の視聴を通じて監視者が人や物体を認識できる状態にあるかを、物体認識率という定量的な指標により表すことが可能です。Intent抽出においては、特定のビジネスシナリオに合わせて、LLM(tsuzumi)を用いてユーザの自然言語での要望からEnd to endのネットワークに必要な要件の抽出が可能です。 マルチドメイン協調制御においては、有線ネットワークとクラウドサーバのドメインの協調制御が可能です。

それぞれの技術における他社技術との差異化ポイントは、以下のとおりです。Intentの定量化では、常時取得可能な映像及び速度に関するパラメータと物体認識率との対応関係をモデル化することにより、物体認識率の観点から遠隔監視システムの常時監視が可能です。Intent抽出では、ユーザが入力した自然言語から 、LLMを用いて事前に構築してあるサービスに関するナレッジグラフの情報を抽出し通信サービスに必要な要件の具体化を行い、標準準拠のAPIに必要な形式で 出力が可能です。APIを標準準拠にすることにより、業界で議論が進んでいるオペレーションの自律自動化を市中技術と連携し実現させることが可能となります。マルチドメイン制御では、協調型マルチエージェント深層強化学習により、最適な制御を予め学習しておくことで、ネットワークの各種リソースに対して、多様な性能指標を最大限満たすリソースの割当箇所・割当量を高い精度かつ短い計算時間で求めることが可能です。

本技術により、サービス提供者・利用者などからのサービス要望に基づきICTリソースを自動的に制御できることで、Intentに合わせた最適な品質のネットワークの提供が可能になるとともに、複雑なネットワーク設計や運用が不要になります。

想定される適用分野・PoC

技術の適用分野は、通信ネットワーク事業者によるオペレーションの自動化です。Mintent は、通信事業者のオーケストレータやコントローラなどのオペレーティングシステムに、オペレーションの高度化機能として導入を想定しています。Mintentの取り組みの1つである「体感品質・データ通信量最適化技術」(図2)は、エヌ・ティ・ティ・コムウェアが提供しているWeb会議システムletariaに導入され、サービス利用者がWeb会議を利用した際の体感品質に基づき、サービス利用者のデータ通信量を制御することで、サービス利用者の要件である途切れにくいWeb会議を実現しています(ニュースリリース:https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/08/30/220830a.html)。また、MintentのPoC(Proof of Concept)を進め、NTT R&D FORUM 2023/2024やdocomo Open House’24へ出展しています。PoCでは、スタジアムで開催されたイベントでのサービス提供において、サービス提供者のIntentから品質要件を抽出し、監視ログから品質を監視・予測しながら、品質要件を常に満たすように、有線ネットワークおよびクラウドサーバのリソース横断制御を実証しました(図3)。

図2:体感品質・データ通信量最適化技術
図3:Mintent PoC

今後の展望

様々なシナリオでのPoCにより技術実証しつつ、制御可能なドメインを拡大し、技術の実用性を向上させることにより、2028年の技術確立をめざしています。