ドローンを活用して洋上風力発電風車の無停止点検を実現する無線技術
風力発電風車の無停止点検で保守稼働削減、発電量増加、カーボンニュートラルに貢献

技術背景・課題
2050年カーボンニュートラル実現や日本国内のエネルギー自給率向上に向けて、再生可能エネルギーのひとつである洋上風力発電が将来の主力電力として期待されています。その導入目標*2は2030年で約1,000万KW、2040年で約3,000万kW~4,500万kWとなっています。導入目標達成のためには2040年時点で約3,600基*3の洋上風力発電の風車が日本沿岸に建設されることとなります。そして建設だけでなく、保守運用効率化も課題になると想定され、アクセスや現地作業が困難な環境条件を踏まえると、なるべく人手を介さない保守運用の実現が重要となります。また洋上風力発電の想定設備利用率*4 30%*5であり、その向上も課題となっています。
そこでNTTでは洋上および陸上風力発電風車の定期点検の自動化による運用効率化と運転停止時間短縮による設備利用率向上の実現に向けて、これまで通信事業で培ってきた無線技術 とドローンを組み合わせた研究開発に取り組んでまいりました。
技術の概要・特徴・内容
本技術では、陸上および洋上風力発電風車を挟み込む形で飛行させた2機のドローン間で微弱無線の送受信を行い、その受信信号の経年での変化を解析することで、フレネルゾーン内の点検対象構造物の損傷有無を検知します。(図1)
洋上風力発電は国内において黎明期であり、まだ定期点検の方法は確立していませんが、陸上風力発電風車の定期点検では運転を停止し画像や動画での詳細な点検を行っているため、結果的に異常がなく停止する必要がなかった場合に発電ロスが生じています。本技術は、従来の詳細な点検を実施すべきかどうかの有無を運転中に判断できるため、発電効率を向上させることができます。
技術のポイントをまとめると以下のとおりです。
- 自律飛行ドローンを無線の送信機と受信機にしていること
- 無線局免許不要の微弱無線を使用するため、どこでも使用できること
- 周波数と送受信距離により決まるフレネルゾーンを変更できること
- フレネルゾーン内の受信信号の変化を比較することで損傷レベルを判定できること

技術目標・成果・効果
本技術はどこでも使用できる無線局免許不要の微弱無線を使用し、その送受信間の受信レベル変動等により、送受信間にある構造物の損傷有無を検知する技術です。
本技術を2機のドローンに搭載し、微弱無線の送信機と受信機に見立てると、上空で微弱無線の送受信間に損傷有無を検知する対象物以外の遮蔽物、反射物が無い状態にすることができます。この状態をつくることで、対象物の軽微な経年変化を把握しやすくなります。正常時の受信信号とその後に測定する受信信号との比較により変化を検知します。
(図2)

また本技術ではソフトウェア無線を活用しているため、送受信周波数を簡単に変更できます。無線局免許が不要な微弱無線による送受信であるため、上空で自由に様々な周波数の電波を変化させながら送受信することができます。これにより周波数と送受信距離によって決まるフレネルゾーンを検知対象の構造物に合わせて変化させることができます。
① 実験室におけるフレネルゾーン内の受信信号の変化による損傷有無検知実証
本技術で構造物の損傷有無を検知できることを確かめるために、ノイズ影響の少ない実験室でフレネルゾーン内の受信信号の変化を検知する屋内実験を行いました。この検知は風車停止状態で行う画像撮影・解析などすでにある技術を使った点検の前段階で使用することを想定しています。そのことから、運転停止基準の判断に使えるかどうかが重要となります。今回の実験では風力発電設備のブレード点検ガイドライン*6 に記されている3つの状態と正常状態を比較することで、回転中のブレード損傷の状態を判断することをめざしました(図3)。結果、運転に影響する計画的に補修を行う状態と保安停止を要する状態の損傷有無を検知することに成功しました(図4)。


*6 | 日本風力発電協会「風力発電設備 ブレード点検および補修ガイドライン」より |
想定される適用分野・PoC
本技術は陸上および洋上風力発電風車の無停止点検に適用することで発電効率を高めることが期待できます。技術確立に向けたPoCでは微弱無線送受信の最適距離、実設備に対する検知精度、安全なドローン自律飛行の確認を通じて実現性を検証します。
今後の展望
今後、数年のうちに陸上風力発電で行われている従来の点検を補完する効果的な技術にすることを目標にしています。さらに現時点で定期点検の方法が定まっていない洋上風力発電点検へ応用することで適用範囲の拡大をめざします。
またNTTグループの事業会社が保有する運用ノウハウ、設備などを利用して繰り返し実験を行うことで、実用性を高めていく計画です。