IOWNを支える技術解説

IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術

屋内外に多数設置されるIoT端末の運用管理負荷を軽減します

IoT向け拡張低レイヤデータ通信術とは、レイヤ2制御フレームの拡張領域の活用の工夫により、低負荷かつ効率的にIoT端末の様々な付加情報(設置場所・状態等の情報)の収集を行う技術です。屋内外の様々な場所にセンサ等の端末を設置してデータ収集を行うIoTサービスにおいては、IoT端末数の増大に伴い端末の場所や状態の把握が困難となる課題がありました。本技術によって、IoT端末の付加情報の収集が容易となり、超多数のIoT端末の運用・管理負荷が軽減され、サービス規模の拡大を行いやすくなることが期待されます。

技術背景・課題

近年、多数のIoT端末を屋内外の様々な場所に設置してデータ収集を行うIoT(Internet of Things)サービスへのニーズが高まっています。収集される膨大なデータは、それぞれのIoT端末の設置場所や状態・設定等が正しいという前提のもと活用されるため、端末の正常性確認を日常的に行う必要があります。しかし、端末の数が増大するに従って巡回チェックの作業時間も増大するため、事業規模の拡大が難しくなるという課題があり、IoT端末の運用・管理負荷を軽減する技術が必要とされていました。

技術の概要・特徴・内容

今回、低リソースなIoT端末においても様々な付加情報(設置場所・状態・設定等)の収集を可能とし、IoT端末の運用・管理負荷を軽減する技術を確立しました。
通信におけるレイヤ2制御フレームの拡張領域に割り込んで端末の付加情報を格納しブロードキャスト送信する仕組みを実装することにより、低リソースなIoT端末においても様々な付加情報(設置場所・状態・設定等)を低負荷かつ効率的に収集可能とし、端末の運用管理や設定作業の負荷を軽減します(図1)。

図1 提案技術の概要

これまでも、ネットワーク接続や構成把握の自動化を目的としたUPnP (Universal Plug and Play)やSNMP(Simple Network Management Protocol)等の技術がありましたが、負荷や消費電力の観点から低リソースなIoT端末への適用には課題がありました。低負荷な端末情報収集技術としてLLDP(Link Layer Discovery Protocol)等の技術もありますが、メーカ・機種名・接続ポートなど収集できる情報の種類が限定的で、多様な用途が求められるIoT端末には不向きでした。

本技術は、端末を特定するための鍵となる任意のデータを、ネットワークデバイスが自律的に送受信するレイヤ2制御フレーム(例えばWi-FiにおけるProbe Requestフレーム等)の拡張領域に割り込んで送出することにより、主通信に影響を与えずに低負荷かつ効率的にIoT端末の様々な付加情報(設置場所・状態等の情報)の収集を可能にします。

例えば、現場作業者から発信されるBLE (Bluetooth Low Energy)ビーコン信号等を鍵データとして探索信号に用いるユースケースでは、鍵データを受信した付近のIoT端末が、主通信の確立状態によらず自端末の端末識別子(MACアドレス等)とともに付加情報をソナーの応答のように即時返信するため、作業者は簡便に端末の存在や状態の情報を収集することができます。

これにより、従来は設置現場において1台ずつ目視や手作業で確認を行っていたIoT端末の探索や状態・設定確認作業を効率的に実施可能となります。

技術目標・成果・効果

今回、提案技術の効果を確認するため、小田原市の狩猟コミュニティの協力を得て、獣害対策のために山林に設置する罠センサの見回り・探索・移設作業のユースケースを想定した実証実験を行いました。

獣害対策の現場では、害獣の生態を把握する為、広域にわたる山林の様々な個所に害獣捕獲用の罠および、罠に獲物がかかったことを知らせるセンサ(以下、罠センサ)を設置しています。設置された罠および罠センサは、定期的に巡回確認することが法律で定められており、設置者とは異なる作業者が確認作業を行うこともあります。また、罠を一定期間設置したのち、効果がなかった場合は別の場所に移設する作業が度々発生します。

  • 設置者とは異なる作業者が視界の悪い山林で罠を探索する為、時間がかかる
  • 移設/再設定作業が度々発生し、作業時間が増大し、設定ミスのリスクも増える

これら2つの問題を提案技術によってどの程度改善可能かの実験を行いました(図2)。

図2 実証実験概要

実験① 罠探索作業における時間短縮効果の確認

実験①では、罠設置エリアに4個の罠センサを仕掛けた条件において、罠の設置場所を知らない被験者が、既存技術(BLEビーコンと既存のスマートフォンアプリを用いた探索)と本技術を用いた場合における罠発見にかかる時間の比較を行いました。既存技術を用いた場合、4個すべての罠の発見に平均32分56秒を要したのに対し、本技術を用いた場合では、平均14分7秒に短縮でき、57%の作業時間効率化を達成できました。

実験② 罠再設置作業における時間短縮効果の確認

実験②では、手作業で行っていた従来の方法では1個の罠あたり10分12秒の作業時間を要していたのに対して、本技術を用いた場合では1台あたり1分32秒に作業時間を短縮でき、85%の作業効率向上が確認できました。

本成果は、技術的観点では、処理リソースが限られるIoT端末に対し本技術を実装した場合においても、実フィールドで要求される性能を十分に発揮できることを示しています。また、猟師の見回り作業効率化の観点では、罠の設置位置を把握していない複数の猟師による日々の①罠探索と②罠再設置の作業分担が可能となり、狩猟コミュニティ全体での狩猟フローの効率化が期待できます。

想定される適用分野・PoC

IoTサービスは今後もますます需要が拡大し、さまざまな分野での活用が期待されています。今回は一例として獣害対策の現場での実証実験結果を行いましたが、本技術は他にも農業・物流業・人流解析・防犯など、屋内外の広域に多数かつ多様なIoT端末を配置する様々なユースケースで活用可能であると考えております。

今後の展望

本技術の活用を検討している社外パートナーとの実フィールドにおける実証実験を進め、ビジネス化を目指します。