特別セッション2では、ゲストに小説家・「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」SF考証の高島雄哉氏、タレントの眞鍋かをり氏を迎え、日本電信電話株式会社 宇宙環境エネルギー研究所 所長 前田裕二氏により「宇宙世紀に向けた、NTT宇宙環境エネルギー研究所の挑戦」をテーマにセッションが行われた。SF作品であるガンダムの設定世界と絡めつつ、核融合炉の最適オペレーション技術など、NTT宇宙環境エネルギー研究所が取り組むさまざまな挑戦について紹介した。
宇宙環境エネルギー研究所は2020年7月に情報ネットワーク総合研究所内に新設された。「地球の未来、宇宙(そら)から。」を基本コンセプトとし、地球環境の再生と持続可能かつ包括的な社会の実現に向け、核融合や宇宙発電など次世代エネルギー技術とレジリエントな環境適応を可能とする技術の創出をめざすとともに、環境負荷ゼロに貢献するための研究を行っている。
より具体的に言うと、「環境負荷ゼロプロジェクト」として核融合炉や宇宙太陽光発電など圧倒的にクリーンなエネルギーの研究を行っている「次世代のエネルギー技術グループ」、作ったエネルギーを流通させる研究を行っている「エネルギーネットワーク技術グループ」、CO2をマイナスにするようなサステナブルシステムの研究を行っている「サステナブルシステムグループ」、さらに「レジリエント環境適応研究プロジェクト」としてESG(Environmental, social and corporate governance)経営を科学的に分析して未来予測をするような研究を行っている「ESG経営科学技術グループ」、物理的に我々自身が環境に適応したり、気象をコントロールしたりする研究を行っている「プロアクティブ環境適応技術グループ」を内包している。
セッション最初のテーマは「宇宙世紀とガンダムの世界観」。日本電信電話株式会社 宇宙環境エネルギー研究所 所長 前田裕二氏より「モビルスーツ、ガンダムはこれからの地球のために必要なのかどうか」という疑問が呈された。
それに対し小説家の高島雄哉氏は、自身がSF考証として携わった「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」には現在まさに実用化されつつあるパワードスーツの延長のような、モビルスーツの前身となる、月面開発作業用として開発された「モビルワーカー」が登場することを例に挙げ、「モビルスーツに繋がる、宇宙空間で自由に動けるようなものがあってもいいのかなと個人的には思う」と述べた。
一方、タレントの眞鍋かをり氏は、自身が取材の際に得た「VR技術が発展すれば人間の五感をさらに上回るようなメリットが得られる」との展望を示し、モビルスーツは人間が搭乗することを前提としているが、通信技術が発展すれば「実際に人が行くだけではなく、例えば感覚だけ宇宙に行くなどが可能になるのでは」とした。
それを受け、前田所長は「ロボットだけが宇宙空間に行き、地上で操作できるという世界はすばらしい」とし、「通信ができない世界をなくす、ということが我々の使命でもあるので、宇宙通信も含めて頑張っているところ」と結んだ。
続いて、現在の地球環境の問題点として、前田所長は人類が増え過ぎたこと、そして今後も増加が見込まれることを挙げ、スペースコロニーへの人類移住について現実解を求めた。
高島氏は「自分も行きたい」としたうえで、「ガンダムが切り開いた長期的にスペースコロニーに滞在するというイメージはあり」と述べた。
一方、眞鍋氏は「スペースコロニーでも地球と同じような生活をすることを前提としているが、例えば肉体だけがスペースコロニーにいて、生活・意識の面では違ったバーチャル世界で生きていくようなこともあり得るのでは」との見解を寄せた。
2つめのテーマは「宇宙世紀と地球環境問題」。ここで前田所長は宇宙環境エネルギー研究所のチャレンジを紹介した。現在、同研究所ではITER機構(ITER: International Thermonuclear Experimental Reactor (国際熱核融合実験炉))、量子科学技術研究開発機構などと連携して、核融合炉の最適オペレーション技術に関する研究を行っている。核融合炉からエネルギーを取り出すにはプラズマを長時間安定的に発生させる必要がある。そのためには膨大なセンサーデータをコントロールセンターに転送し、最適な数値を計算し、瞬時にフィードバックする必要があるが、その実現にはネットワークのさらなる高速化・低遅延化が不可欠となる。そこでNTTではIOWN技術を適用し、これに貢献したいと考えであることを表明した。
また、宇宙太陽光発電についての研究も紹介。同研究所では36,000km上空の静止軌道上で発電したエネルギーを地上に伝送する研究も行っている。伝送する際に使用するレーザーが実現すれば、雲や海を暖めたり冷やしたりすることができるため、気象をコントロールできるのではないか、という見解が前田所長より示された。まずはデジタルツインコンピューティングの技術を使ってサイバー空間上に再現した地球上でさまざまなシミュレーションを実施し、地球および人類に悪影響がないことを確認した後、現実社会での実行を目指すとのことだった。
最後に両ゲストへ、宇宙環境エネルギー研究所へのリクエストを伺った。
高島氏からはワープに関する研究をしてほしいとの要望。これに対し、前田所長は人体の転送となるとまた違う話になるが、と前置きしたうえで「通信の分野の技術ではあると思う」と回答。研究への参入の余地を残した。また、眞鍋氏からは「新しい世界の価値観、ナチュラルな思想の両輪を持ち、自然界が豊かになるような方向性の研究も続けて欲しい」という要望が寄せられた。