特別セッション1では、ゲストに日本フェンシング協会会長/国際フェンシング連盟副会長 の太田雄貴氏、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO/株式会社IMAGICA GROUP ゼネラルプロデューサー諸石治之氏を迎え、日本電信電話株式会社 サービスエボリューション研究所 主席研究員 木下真吾氏により「ポストコロナに向けたスポーツ&ライブエンターテインメントの再創造」をテーマに、コロナ禍におけるスポーツ&ライブエンターテインメントの現状と今後について議論が交わされた。
※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。
ぴあ総研の2020年5月の発表によれば、今年2月から年末までのイベントの中止・延期件数は約43万2000件、その損失額は市場規模の77%、約6900億円と予測されている。
大勢のファンがひとつの会場に集まり、大きな声援を送ることにより一体感を生む、スポーツ&ライブエンターテインメントという素晴らしい体験文化が、コロナという未曽有の危機によってあり方の変革を迫られている格好だ。
そこでセッションでは、ゲスト2氏とともにポストコロナ時代に向けたスポーツ&ライブエンターテイメントの課題および将来像、そしてそこにNTTが果たすべき役割について議論された。
まずは現在、スポーツ&ライブエンターテインメント業界に何が起きているかを日本電信電話株式会社 サービスエボリューション研究所 主席研究員 木下真吾氏が紹介。
ライブエンターテインメント業界については、イベントの中止・延期が続き、無観客または観客数を削減して開催したとしても声援やハイタッチは禁止、という厳しい状況が続くなか、クリエイティブやテクノロジーを活用して成功を収めた国内外でのオンラインライブ等の事例が紹介された。
また、スポーツ業界についても、CGや電子会議システムを使用した「バーチャルファン」を配置することで会場を盛り上げる取り組みや、シミュレーターを使用して試合自体をバーチャル化した自転車競技の取り組みなどが紹介された。
さらにNTTがコロナ以前から開発を続けてきた、競技空間を遠隔会場にまるごと届け、超高臨場な情報伝達を実現する「Kirari!」の技術を紹介。超低遅延通信技術により試合会場と遠隔会場とを同期させ、一体感を生み出す分散URV(Ultra Reality Viewing)の様子が披露された。
ゲストの日本フェンシング協会会長/国際フェンシング連盟副会長 太田雄貴氏は、コロナ以前から現在までのフェンシング協会の取り組みを紹介。「突け、心を。」というフェンシング協会の新スローガンのもと、2017年から取り組んだ大会の改革について報告した。
選手の格好良さを綺麗に出すようポスターを工夫したり、会場を従来の体育館から劇場に移したりといった取り組みで、客数およびチケット単価を上げた経緯が語られた。
また、NTTの協力のもと実施された決勝大会でのリモート観戦体験についても報告。「ハートビートエクスぺリエンス」は、別会場で応援するご家族に試合中の選手の鼓動を感じながら観戦していただく仕組み。選手が装着した心拍計のデータをご家族が持つボール型のデバイスへと伝送し、選手の鼓動を「振動・光」として体験するものだ。また、「リモートハイタッチ」は試合会場の選手と別の会場で応援するご家族とのハイタッチを可能とするソリューション。それぞれの会場に設置された透明のボードに触れたときの振動を計測し、映像とともに遠隔地へと伝送するものだ。離れた場所からの観戦でも双方向のコミュニケーションを取ることができ、スポーツの感動・喜びを伝え合うことができる新たな仕組みと言えよう。
もうひとりのゲスト、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO/株式会社IMAGICA GROUP ゼネラルプロデューサー諸石治之氏からはコロナ禍でのビジネスモデルの変容について説明。リアル至上主義で進行してきたライブエンターテインメント業界だが、今後は三密回避、ソーシャルディスタンスの確保といった観点から、ありかた改革が求められている。これまでの劇場等の物理空間の中でチケット収入を得るという「劇場型収益」のビジネスモデルから、配信やライブビューイングを活用した「体験価値収益」のビジネスモデルへと変容するのではないか、とのこと。
最新の取り組みとして、自身が企画・プロデュースを担当した「長渕剛オンラインライブALLE JAPAN」を紹介。2時間半・16曲を完全生ライブという形で配信し、10万人以上が視聴したライブだ。300インチのLEDを3面配置し、360度を映像装置に囲まれるという環境を創り出し没入感・世界観の演出を行った。また、300人がリモート参加し、一緒に歌うことで一体感・リアルタイム表現をも実現。ライブ会場では、物理的制約の中で、アーティストとファンの空間的距離がうまれてしまうが、映像そして配信を活用した新しいコミュニケーションの演出や表現、テクノロジーにより、心と心の距離をゼロにすることができる。
リアルとバーチャルを融合した新しいライブエンターテイメントの可能性を諸石氏はこのライブを通じて発見したという。
続いてディスカッションを実施。オンラインライブの有効性を再確認するなか、木下氏がスポーツ&ライブエンターテインメントの将来について問いかけると、太田氏はハイブリッド型になるだろうと予測しつつも、グローバル化が進むことにより大手の寡占化が進むのではないか、という危機感を吐露した。一方、諸石氏は、5G、AIなどが普及する中、テクノロジーとクリエイティブが融合することで新しいビジネスが生まれ、そして、エンターテインメント世界が広がっていくのが楽しみだ、と述べた。
セッションは未来のスポーツの話題で大いに盛り上がり、3氏はまだまだ語り足りない様子だったが、大変有意義なものとなった。