高速大容量ネットワーク応用に向けたコア・メトロ・データセンタ間 (DCI)ネットワーク用デジタルコヒーレントデバイスや光スイッチ・フィルタデバイス、波長帯一括変換デバイスなどの実用化開発により、次世代光ネットワークの実現に貢献することを目指しています。
機械学習 (ML)/AI、クラウド、5G等の普及によって情報通信トラヒックは指数関数的な増大を続けており、これを継続的に支える光ネットワークの大容量化に向けて、デジタル信号処理を活用して超高速コヒーレント光伝送を実現するデジタルコヒーレント信号処理回路(コヒーレントDSP)の開発を進めています(図1)。コヒーレントDSPでは、光の偏波、振幅、位相 をすべてデジタルデータとして取り込み、高度な信号処理によって光ファイバ伝送路や光電子デバイスによる光信号歪みを補償します。これにより、飛躍的な伝送容量の大容量化を可能とします。これまでに長距離伝送向け高性能版としては波長あたり伝送容量100Gbit/sから1.2Tbit/sまでを実用化し、次期向けとして1.6Tbit/sを開発しています。また、データセンタネットワークでは、高密度実装を実現するために、小型モジュール搭載向けに超低消費電力なDSPが要求されます。これまで、低電力版としては、最大容量 400Gbit/sを10W 未満の消費電力で実現するDSPを実用化し、次期向けとして800Gbit/sを開発中です。伝送容量の大容量化には、シンボルレートの高速化と変調多値度の高度化が必要です。加えて、伝送容量・伝送距離・周波数占有帯域をアプリケーションに応じて柔軟に構成できる適応変復調技術が必要です。NTT研究所では、偏波・振幅・位相を柔軟に制御する多値変調技術、細かい情報量の設定を可能にする符号化技術、およびそれらを低電力に実現するデジタル信号処理技術を研究し、これら新技術を搭載したコヒーレントDSPを開発しています。さらに、コヒーレントDSPを、光と電気の変換機能を集積したシリコンフォトニクス光回路、電気の増幅器等のアナログ電子回路と1つのパッケージに実装するコパッケージ実装により、圧倒的な小型化を実現します。
ネットワークの大容量化には、異なる波長の信号光を束ねて伝送する波長分割多重が欠かせない技術となっており、波長を無駄なく利用する合分波機能や波長ごとに緩やかに変化する伝送損失を補償する機能を提供する光フィルタ、ネットワークの自動制御に用いられる広帯域な光スイッチなどが不可欠です。われわれは、NTT発の技術である石英系光導波路を用いた光集積回路を使い、これらの光フィルタや光スイッチの研究開発を推進しています。これまで培った光集積回路に関するデバイス技術を駆使して、次世代の光ネットワーク実現に貢献していきます。
次世代のフレキシブルな光ネットワークの実現を目指して、複数の光信号を一括で別の波長帯に変換する広帯域波長帯一括変換を実現する光信号処理デバイスの開発に取り組んでいます。光信号を光のまま処理することで、デジタルコヒーレント信号の速度や信号形式に依存せずに様々な形式の光信号に適用が可能です。本技術を用いることで、既存波長帯向けの送受信装置を新たな波長帯に適用して、波長分割多重可能な帯域を増やして光ネットワークを大容量化することが可能になります。また、光ノードに適用することで波長資源を活用したフレキシブルなネットワークが構築可能になります。