上席特別研究員
可児 淳一

情報通信サービスの進化を加速する
新たな光アクセスネットワークの研究

横須賀研究開発センタ
上席特別研究員
可児 淳一

―現在の研究分野・研究内容・研究テーマを教えてください。

情報通信サービスの進化を加速する新たな光アクセスネットワークの研究をチームで進めています。
システムの性能や柔軟性を抜本的に高める要素技術、アーキテクチャの研究、そして、グローバル連携の活動を通じて、新たな光アクセスネットワークの実現・普及をめざしています。現在の光アクセスネットワークでは、バスの乗客が駅で電車に乗り換えるように、通信ビルで中継ネットワークにトラフィックの乗せ換えをしています。将来的にアクセスネットワークと中継ネットワークを融合させることで、トラフィックを乗せ換えることなく、必要な場所まで光信号のまま伝送できるようなネットワークをめざしています。
光アクセスネットワークは、これまで、FTTH(Fiber To The Home)と呼ばれるブロードバンドサービスの発展を支えてきました。モバイルインターネットの時代になり、「有線の光ネットワークはもういらない」と思われるかもしれませんが、通信ビル内の設備と、5G(第5世代移動通信システム)のアンテナや次世代の無線LANのアンテナ等はすべて光ファイバのネットワークでつながっていきます。また、工場の機械や各種のセンサー、交通システムや電力システムなど、あらゆるものがネットワークでつながっていくことを考えると、帯域や遅延などの要件はこれまでよりも一層幅広いものになっていくでしょう。このような背景から、光アクセスネットワークは、FTTHの基盤から、多様なサービスやシステムに共通のアクセス基盤になるとの考えのもとに、将来に向けて光アクセスネットワークを進化させるべく研究開発をしています。

―自身の研究テーマについて、どのような点において「世界トップレベルの革新研究/先導的な技術開発である」と言えるのか教えてください。

具体的な取り組みとして、まず、これまでよりも、広帯域、低遅延といった幅広い要件に応えていくために、光アクセスネットワークの伝送性能の抜本的な向上にチャレンジしています。一例として、我々のチームでは、世界初となる光アクセスネットワーク向けのリアルタイムデジタルコヒーレント光送受信回路を実現しました。デジタルコヒーレント受信方式は、バックボーンネットワークの大容量伝送で用いられていますが、アクセスに適用する際には、別々のONU(Optical Network Unit)から送信されたパワー差の大きい間欠的な信号(バースト信号)を受信する必要があります。バースト対応のコヒーレント受信回路に加え、リアルタイム信号処理回路を考案・開発することで、パワー差20 dB(100倍)以上の20 Gbit/sの信号を誤りなく伝送することができました。光通信関連では世界最大級の国際会議ECOC2016において、アクセスネットワーク分野でトップスコアの評価を得ています。

さらに、ネットワークの柔軟性を抜本的に向上させるために、伝送機能のソフトウェア化に取り組んでいます。伝送機能をソフトウェア化して汎用サーバーやPCといった汎用機器上で動作させることができれば、帯域や距離のニーズに合わせて伝送機能の入替、組み合わせ、チューニングといったことが圧倒的にやりやすくなり、最初にお話ししたような、好きなところまで光でアクセスできる新しいネットワークの実現のキーになると考えて、研究を進めています。東京大学との共同研究を行い、画像処理や機械学習で使われるGPUを活用するとともに、新しいアルゴリズムの検討も進め、現行のアクセスシステムではもっとも処理が重い誤り訂正に関して、処理速度10 Gbit/sを達成して、通信関連の基幹国際会議であるGlobecom2016にて伝送/アクセス/光委員会ベストペーパ賞の評価を得ました。さらに、デジタル信号処理(DSP)の高速ソフトウェア処理を実現することで、世界で初めてソフトウェアでデジタルコヒーレント光伝送を実現し、光通信で世界最大の国際会議OFC2018で、アクセスネットワーク分野においてトップスコアの評価を得ています。

―自身の研究テーマを進めることで世界がどのように変えられるのか、また、自身が世界をどのように変えたいと考えているかを教えてください。

科学技術基本計画によって日本がめざすべき未来の姿が示されています。いわゆるSociety 5.0と呼ばれているものです。簡単にいえばサイバー空間とフィジカル空間の融合とでも表現しましょうか。これらの実現には、一般的にはAI(人工知能)やVR(仮想現実)などに注目が集まりますが、基本的にはこれらを支えるインフラ部分で光通信により情報がスムーズに伝送されることがとても重要になります。光通信は土台の部分を支える技術という意味では裏方ではありますが、情報通信サービスの進化を加速させて社会の役に立つ重要な技術だと思います。私たちはその中でも光アクセスの先端技術を引き続き担っていきたいと思います。
NTTは、光ベースの革新的なネットワーク・情報処理基盤の将来像として、IOWN構想を発表しました。この実現に向けて、我々のチームも、もっと新しい世界、新しいネットワーキングにチャレンジし、新しいICT世界を実現したいと考えています。

PROFILE

可児 淳一

情報通信サービスの進化を加速する
新たな光アクセスネットワークの研究

上席特別研究員 可児 淳一

略歴

1996年
日本電信電話株式会社 入社
2003年
NTTアクセスサービスシステム研究所 勤務
2005年
博士(工学)

現在、NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセス基盤プロジェクト 光アクセス基盤SEグループ グループリーダ、同 上席特別研究員、北海道大学大学院情報科学院 連携分野 客員教授。

受賞歴

2013年
The IEEE Communications Society Leonard G. Abraham Prize in the Field of Communications Systems

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