AI

真に「考える」AIへ。NTTにおけるAI技術の研究開発について紹介します。

インタビュー 西田京介特別研究員

様々な研究が行われる中に合って、特に近年注目を浴びるAIの分野。ここではNTTでAIの研究に取り組む西田特別研究員に、AI研究への取り組みと、これからのAI研究に関してお話を伺いました。

◆PROFILE:2020年 言語処理学会第26回年次大会 優秀賞。2019年 言語処理学会第25回年次大会 優秀賞。2018年 言語処理学会第24回年次大会 最優秀賞。2017年 日本データベース学会 上林奨励賞。2015年 情報処理学会 山下記念賞。法政大学 兼任講師(2019年~)

NTTのAI研究ー言葉の意味を理解する機械読解とは

研究されている内容を教えてください。

私は、機械読解の研究を行っています。テキストをAIが理解して、質問に対して的確に回答をする、というものです。
 

図1 機械読解(Machine Reading Comprehension)
図1 機械読解(Machine Reading Comprehension)

例えば自動車保険に関して、その内容や補償範囲などを説明した文章があるとします。事細かな補償内容まで書かれた説明文章から、トラブルの相談受付時間や、レッカー移動などを頼めるかどうかなどの情報を探すのは手間が掛かります。これにAIを用います。ユーザーが何か質問したときに、AIが答えをテキストの内容を基にわかりやすく説明してくれます。例えば、「レッカー移動の受付時間をおしえて」と質問をすれば、「レッカー移動は24時間365日対応しています。」と回答してくれる、といったイメージです。

AIがテキストの意味を完全に理解するというのはまだ実現できていません。でも、研究はテキストを単語の集合として扱っていた時代から大きく進化しています。今ではAIが言葉の意味を正しく理解することを目指して研究を進めています。

現在は、読むのが大変なニュースサイトや新聞にある長いテキストをAIが素早く読んで、学習のときに見たことのないテキストでも質問に対する答えが見つけられるようになってきています。だいぶ進歩しました。

この技術はチャットボットやスマートスピーカーのような、あたかも人間のようにAIが応対するものにも期待されている技術です。今までだと、「スーパーボウル 開催地」のようにキーワードで検索していましたよね。それが、「スーパーボウルの開催地はどこですか」のように、自然な文で検索の意図をはっきり伝えて質問をして、それに対してAIが答えをピンポイントで正確に出してくれるようにすることを目指しています。

機械読解 はどのように実用化されるのでしょうか。

実用化の観点でいきますと、例えば大量にある社内文書から的確に情報を検索する際に活用されていきます。また、コンタクトセンターのようなところでも活躍します。大量の契約書やマニュアルをオペレーターが完全に理解するのは結構大変です。そういった苦労をAIが補助してあげる、もしくはいずれは代替することができると考えています。

機械読解の今後の課題と進化とはどのようなものでしょうか

最近ではこの機械読解のコンペティションが多く行われています。AIに、質問に対して適切な文章を単に抜き出してくるだけではなくて、自然な表現で答えさせるというようなコンペティションです。ここで難しい点が自然な表現を「生成する」ということです。私たちの研究ではニューラルネットワーク を使って言語処理を行っています。巨大なネットワークに対して入力を入れると、応答に必要な文章と質問の内容をうまく要約して、応答文を生成します。簡潔な答えが求められている場合は、回答部分だけを端的に答えるようなことも可能になってきています。

AIの言語理解能力はかなり上がってきましたが,現実の世界ではAIが理解できないテキストがまだたくさん有ります。例えば、駅に立てばそこら中に看板や電光掲示板などのテキストがあります。それをAIが正しく理解できるかというと現状では難しいです。テキストの配置だとか、そういうものもちゃんと理解しなければいけないですよね。絵や文字、写真なども含めて、目に見える情報のすべてを理解していく必要があります。

機械読解にはいろいろと可能性があり、言語理解を軸として、目に映る世界のテキストを正しく理解していくことを野望としては考えています。

目指すのは人とAIとの自然な協調

AIの研究における環境の変化を感じますか?

私が機械読解の研究を始めて2年半が経ちましたが、特にこの1年間では大きな変化がありました。言語処理に大きなパラダイムシフトが起きたためです。具体的にはGoogleがBERT というモデルを出して、前のモデルに比べてAIの言語の理解のレベルが劇的に上がりました。言語処理分野全体が大きく変わっている最中です。とても面白い時期だと思っている一方で、競争も激しくなってきています。

これからのAIの未来とはどのようなものでしょうか。

今はまだ人間がAIに合わせる必要があり、様々なデータをAI用の入力として成形する必要があります。AIができる範囲も、あらかじめ学習させた特定のタスクだけを解くもので限定的です。いずれAIが人間と同じ情報を用いて、人間と同じレベルで柔軟に解けるようになると、人とAIが自然に協調できるようになると考えています。

NTTの強みはどのようなものでしょうか

チームの力ですね。私たちはマイクロソフトのコンペティションで2019年の1月から12月まで1位を取っていました。脈々と蓄積されてきた、NTTにおける言語処理チームの力が発揮された結果だと考えています。

研究がニューラルネットワークの時代に変わってきてから、チームで戦うことが特に重要になってきました。研究の流れが速くなってきているので、情報共有しながら、どれだけ世界に追い付いて、追い越していくかが重要です。

メンバーには数学科出身とか、学生時代には言語処理に取り組んで居なかった人もいます。私自身も、数年前まではGPSログのデータマイニング・行動モデリングの分野に取り組んでいました。様々なバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの強みを活かして全力を尽くしているというのが、大きいポイントだと思っています。

一人だけで研究をするのは、すごく難しい時代ですよね。NTTでは大学や企業とも協力し合っています。これからは社内のチームだけにこだわらず、外部の方々と組むことでも、より大きい世界が実現できると思っています。

AIの研究に取り組みたいと思っている方へメッセージがあればお願いします。

AIは昔から存在している研究テーマです。ただ、最近、研究のスピードがすごく速くなってきているため、分野が変わって入ってきても頑張れば一気にトップレベルに追いつける分野でもあります。そういう意味で、夢があるといいますか、研究者として大きい成果が出せる可能性もあると思っています。面白い状況です。

言語処理は世界中から注目を集めている分野ですし、私自身も研究していてとても楽しいです。

そして研究の際に大事なのは、環境だと思います。そういう意味で、NTTはとてもいい環境がありますし、これからさらに世界に向けて、確かな実績を出していきたいなと考えています。

ビジネスも研究も変化が激しいので、仲間がたくさんいるところで刺激をもらいながらやれる環境がすごく重要だと思います。

いい研究者がいるとか、やる気のある人がいるとか、ビジネスとつながっていて世に実用化していくチャンスが多いだとか、様々な検討の軸はありますが、ぜひ自分に合った環境で楽しんで研究に取り組んでいただきたいです。

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