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OCP Global Summit2024参加レポート

NIC 光トランスポートシステムプロジェクト

中野 寛二(なかの かんじ)

#OCP#SONiC#OSS

2025/9/30

OCP Global Summit 2024 参加レポート

こんにちは、光トランスポートシステムの研究開発に携わっている中野です。米国サンノゼで開催された OCP Global Summit 2024 に参加してきましたので、その様子をレポートしたいと思います。
私たちのチームでは、SONiC*1をはじめとするオープンソースネットワークOSやホワイトボックススイッチなどを対象としたオープンハードウェアの活用を積極的に進めています。具体的には、新規ハードウェアの調査や海外のコミュニティメンバとの技術議論を通じて、SONiCコミュニティへの提案を行っています。その一環として OCP のような海外イベントにも参加しています。本記事では、会場の雰囲気や印象に残ったセッション・展示、そして SONiC コミュニティでの議論についてご紹介します。

OCP Global Summit について

OCP (Open Compute Project) は、Facebook(現Meta) が発端となって始まったデータセンター機器の設計をオープンに共有するハードウェア標準化の取り組みを目的に結成されました。現在は世界中のハイパースケーラやハードウェアベンダが参加する巨大なエコシステムとなっています。OCP Global Summit はその活動の中心的イベントであり、OCPにおける最新成果の発表と標準化の方向性を示す「年次総会」的な位置づけを持ちます。2024年は 10月15日〜17日 にかけて San Jose Convention Center で開催され、参加者は過去最多の 7,000人 に達しました(前年は4,400人)。
プログラムはキーノート、展示、ブレイクアウトセッションに加え、SONiC Workshop や AI/Photonics Track なども設けられ、非常に幅広いトピックが扱われました。

キーノートのハイライト

キーノートでは「AI ソリューションのオープン化」が大きなテーマでした。各社はシリコンからラック、データセンター全体まで自社技術を公開し、エコシステム形成を加速させる姿勢を打ち出していました。
・Meta: AIモデル「Llama」や 51.2T スイッチ「Minipack 3」、さらに新しい DC ファブリック設計 (Disaggregated Scheduled Fabric) を紹介。
・Microsoft/Google: Ultra Ethernet や UALink による高速ネットワーク、OCP SAFE などセキュリティ仕様策定を強調。
・NVIDIA: Blackwell プラットフォームのオープン化、DC 向け Spectrum-X スイッチの新情報を発表。
・Intel/AMD: 省電力化とAI向け最適化を軸に、x86エコシステムの発展をアピール。
OCP Global Summit 2024全体を通じてのトレンドは「AI ワークロードを中心としたデータセンター基盤の標準化・効率化」であり、その具体例として 51.2Tスイッチによる帯域拡張、液冷システムによる省電力化、超高速ファブリックによる相互接続性強化が議論の焦点となっていました。

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キーノートの様子

展示会場の注目トピック

展示は 100 社以上が参加し、昨年から大幅に規模が拡大。特に印象に残ったのは以下の分野です。
スイッチ: AI基盤に使用されるBroadcom Tomahawk5 搭載の 51.2T スイッチやOCP規格51.2T スイッチのMinipack3展示

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OCP規格51.2T スイッチ「Minipack 3」

ラック: OCP Open Rack v3 や NVIDIA の GB200 NVL72 ラックソリューション。液冷システムの採用が進み、AI クラスタ対応を見据えた設計が目立ちました。
インターコネクト: CXL*2による共有メモリによって CPU・GPU 間のデータ転送効率を高める取り組みや、AEC*3ケーブルによる低消費電力リンクで従来の光トランシーバの消費電力課題に対応するソリューションが紹介されました。
NIC: Broadcom/Meta の 400G SmartNIC、AMD Pensando 搭載の UEC NIC。AI ファブリックを前提とした製品が揃っていました。

SONiC Workshop

OCP Global Summit では私たちが開発に携わっている SONiC に関するセッションも多数開催されました。特に注目したのは以下の3つです。
SONiC 2024 Update: TLS 1.3、SRv6、TWAMP など 37 機能が追加。AI や OTN 向けの新WGも発足。
Advancing SONiC for AI: AI WG による負荷分散・輻輳制御の議論。従来の ECMP*4に代わり Queue Pair ID を使った E-ECMP や Packet Trimming の提案が興味深かったです。
Streaming Telemetry with SONiC UMF: gNMI*5を用いたリアルタイム・オンチェンジのテレメトリ。将来的には AI ファブリックの輻輳制御への応用も期待されます。
SONiC が AI ネットワークの基盤として進化している様子を強く感じました。

SONiCコミュニティメンバとの議論

今回の参加で特に大きな収穫だったのは、SONiCコミュニティのメンバと直接議論できたことです。普段はGitHubのPRレビューやメーリングリスト、WGミーティング越しのやり取りが中心ですが、現地で顔を合わせることで深い議論ができました。
特に、テストコードの実装方法や品質確保の進め方について意見交換したほか、HLD(High Level Design)のレビュー依頼や今後のコードレビューの進め方についても相談することができました。こうした議論を通じて私たちの提案や改善点が理解され、実際に提案コードのマージへとつながったことは大きな成果でした。

SONiCブースデモ

SONiCブースにて IOWN/APN の紹介と、私たちが開発した光パス省電力化機能のデモ展示を実施しました。デモでは、トラヒック変動に応じて光パスを増減設することでデータセンターゲートウェイの省電力化を図る転送伝送連携機能を紹介し、聴講者との活発な意見交換が行われました。この機能の詳細については今後のNIC Tech Talksで紹介予定です。

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デモの様子

まとめ

OCP Global Summit 2024は、昨年の「ビジョン提示」から一歩進んで、実際の製品やソリューション が数多く展示されたのが印象的でした。CPO/CPC などのスイッチ内部設計や液冷システムなど、AI ワークロードを現実的に支える技術が議論の中心にありました。
また、SONiC コミュニティのメンバとも直接議論でき、今後の提案活動に向けたネットワークを築けたのは大きな成果でした。生成AI の急拡大を背景に、データセンターやネットワークに求められる要件はますます厳しくなっています。これらの課題を研究・OSS 活動を通じて解決していくことが、次世代インフラ構築に不可欠だと改めて感じました。

今回のレポートが、OCP の取り組みや AI 時代のデータセンター技術に興味を持つ方の参考になれば幸いです。

本研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の助成事業(JPJ012368G60401)により得られたものです。

脚注(用語解説)

*1 SONiC (Software for Open Networking in the Cloud) : Microsoftが中心となって開発しているオープンソースのネットワークOS。Linuxベースで、スイッチやルータなどのネットワーク機器に搭載され、クラウドデータセンター向けに柔軟な機能拡張が可能。

*2 CXL (Compute Express Link) : CPU、GPU、メモリ間の高速・低レイテンシな接続を実現するオープンインターコネクト規格。AIやHPC(高性能計算)でのメモリ共有や効率的なリソース利用を目的とする。

*3 AEC (Active Electrical Cable) : 高速データ伝送に用いられるケーブルの一種。従来のパッシブ銅ケーブルに対し、信号補償や増幅を行う回路を内蔵し、長距離伝送や低消費電力化を実現。光トランシーバの代替や補完として利用される。

*4 ECMP (Equal-Cost Multi-Path) : ネットワークで複数の経路を同一コストで利用し、トラフィックを分散する技術。AIワークロードでは従来のECMPに代わる新方式(E-ECMPなど)が議論されている。

*5 gNMI (gRPC Network Management Interface) : ネットワーク機器の設定やテレメトリ収集を行うためのプロトコル。リアルタイムでの状態監視や自動化に活用される。

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