NICの研究開発
トップインタビュー
NTTネットワークイノベーションセンタ センタ長
松本 健一郎
#IOWN実用化#研究開発方針#インタビュー
2024/10/31
本記事では、NTTネットワークイノベーションセンタ センタ長 松本健一郎(まつもと けんいちろう)へのインタビュー模様をお届けします。2024年7月1日にNTTネットワークイノベーションセンタ(以降、NIC)のセンタ長に就任した松本。これからの注力事項やめざしていきたい研究所像について聞きました。
「知の泉を汲んで研究し実用化により世に恵を具体的に提供しよう」
まず始めに、ネットワークイノベーションセンタとしてめざす姿について教えてください。
「知の泉を汲んで研究し実用化により世に恵を具体的に提供しよう」。これは1950年に初代電気通信研究所所長の吉田五郎が掲げた言葉です。今でもNTT研究所のDNAとして受け継がれ、我々の研究開発の指針となっています。この言葉には3つの思いが込められており、「知の泉を汲んで研究し」は「世界レベルの研究地位の確立」をめざすことを意味します。また、「実用化により」は「技術を早期かつ確実に実用化」すること、「世に恵を具体的に提供しよう」は「研究成果の社会実装を通じた価値提供」を意味します。NICでも研究員は日々この言葉を意識して研究開発に取り組んでいます。特に後半の2つにはとても深い関わりがあり、NICはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の具現化と社会実装をミッションとする組織です。インフラ、アクセスネットワーク、コアネットワーク、ネットワークサービス、オペレーションといったネットワーク全体の社会実装に取り組んでいます。
ネットワーク系のR&Dを取り巻く環境は①AI進展等に伴う流通するトラフィックの増加、②災害の頻発化・激甚化、③カーボンニュートラル・環境への関心の高まり、といった継続的なトレンドに加えて、④通信インフラに対するサイバー攻撃、障害による国民生活や社会活動への影響度の拡大、⑤モバイル事業に代表されるネットワーク品質競争激化、⑥生成AIに代表されるAI/デジタル技術の革新など、大きく変化しています。これに伴い、市場のニーズも多様化する中で、最先端の技術を追求しながらも、NTTグループとして競争力を維持した研究開発をすることが求められます。
最先端のネットワーク技術は、我々だけでなく、ネットワークサービスシステム研究所、アクセスサービスシステム研究所、未来ねっと研究所、また最新のセキュリティ技術は社会情報研究所、などNTT研究所内の他の研究所でも日々検討が進められています。NICはこれらのコア要素技術を、お客様の要件を汲み上げてシステム化し、世の中を支えるネットワーク・インフラとして実用化する最後の要となる組織です。単発の要素技術だけではなく、トータルでの価値創出をめざし、NTTグループ内外の様々な会社との連携シナジーを生み出しながら研究開発を進めます。世の中に実際に技術を送り出すためには、お客様にサービスを提供するNTTグループ会社との連携、そして世の中で必要とされるタイミングで技術を提供することが重要となります。ネットワークの研究開発は非常に大規模で時間もかかるものが多いです。そんな中でもお客様が必要とするタイミングで、タイムリーな技術提供ができる組織、それが私のめざす組織像です。
APNの全国展開推進でIOWNの実用化を支える
続いて、松本センタ長のこれからの注力事項について教えてください。

NICでは3つの軸をおいて研究開発を推進しています。
まず注力する1点目はAll Photonics Network(以降、APN)です。APNはIOWNを構成する主要な技術分野の1つで、端末からネットワークまで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、エンド・ツー・エンドでの光波長パスを提供する波長ネットワークにより、圧倒的な低消費電力、高速大容量、低遅延伝送の実現をめざすものです。IOWN構想の中でも特に先行してサービス化が進んでおり、我々も研究開発に携わっています。今後もAPNの全国展開によりIOWNの実用化を支えていきたいと思います。
APNは既に、NTT東日本、西日本、コミュニケーションズからサービスとして提供されていますが、これを全国展開してお客様に使っていただくためには、益々の経済化と消費電力の低減が欠かせません。専用線のように光パスを張りっぱなしにする形態ではお客様のコスト負担が大きく、また利用開始時には光パス開通のための設定や設計の時間がかかります。そこで、光パスを柔軟に制御するオンデマンド化が必要となります。我々はこのようなオンデマンド化に資する研究開発を進めると共に、APNを構成するノード群のうち、伝送基盤向けには大容量化や電力効率の向上を、またルーラル向けには小型化や低消費電力化も進めています。
また、サービスをより一層拡大するという観点では、高付加価値化も必要です。伝送路のセキュリティ確保、遅延のマネジメント等をAPN網で実現することにより、価値のあるAPNサービスを提供します。更には、これらのAPN網を統合的に管理するコントローラにより保守運用コストの抑制もめざします。
AI技術のネットワークへの導入推進が重要
2つ目の注力点は、ネットワークサービス基盤・ネットワーク運用です。
6G/IOWNの時代では、多様なアクセス形態を意識させずシームレスにエンド・ツー・エンドで高機能通信を提供することがとても重要となります。我々はIOWNにおいて場所・利用形態を問わず様々なユーザ要望に応える高品質・高機能な通信を提供するために、移動網と固定網を融合させた制御・管理の高度化、 XR/メタバースを支えるネットワーク付加価値、システムの省電力化・セキュリティ付加価値、を提供するプロダクト群の開発を推進しています。
また、ネットワーク障害のもたらす社会影響が拡大していることを考えると、ネットワークの運用は益々重要性が増してくると考えられます。しかし、ネットワークの多様化・複雑化が進む中で、全てを人手に頼って運用していくことには限界があります。そこで、昨今技術進展の著しいAIに我々としても着目をしています。AIを利用することで、今は人が実施しているアラームの分析や故障個所の特定といった業務の各プロセスの自動化や、新たな装置の追加やネットワーク構成の変更といった様々な環境変化への自律的な対応の実現をめざします。これらの技術は、災害・障害発生時においても、自律的に最適な状態へと早期回復することにも活用でき、社会課題解決へとつながると考えています。AIシステムをどこまで現場のネットワーク運用業務に組み込めるのか、NTTグループ会社と一丸となって実用化を加速していきたいと思います。
アクセスネットワーク基盤はNTTのネットワーク事業の基盤

最後の注力点はアクセスネットワーク基盤です。アクセスネットワークとは皆さんのご家庭の側にある電柱や管路、そして光信号の伝送を担う光ファイバーなどを指します。まさにNTTのネットワーク事業の基礎となる部分です。
トラフィックの増加問題を解決するためには、光ファイバーの物理的な制限を改善うる高速大容量化や多芯化が欠かせません。我々は空間分割多重技術による解決をめざしています。
日本中に張り巡らされた通信基盤設備の維持管理はとても重要です。我々はこの維持管理行程のスマート化や工法の抜本的な改革のため、施工自動化、簡略化による人力作業負担減、現地作業効率化に資する研究開発を進めています。特に高所や電柱の設置などの屋外作業には現場で作業をする人々にとって命に関わるような危険な作業も伴いますので、現場作業者の高齢化も進むかなでこれらの作業を安全かつ効率的に遂行することはとても重要です。
また、NTTグループは通信インフラの運用ノウハウやインフラ設備を持っていますので、これらを活用方法の開拓も進めてます。具体的には光ファイバーを活用した環境のモニタリングや点群・画像データを使ったインフラのDXを推進する技術開発を進めています。
最後に、NIC Tech Talksの読者に向けたメッセージをお願いします。
インタビューの冒頭でお伝えしたように、NICはNTT研究所内で培われたネットワーク技術をシステム化し、世の中を支えるネットワーク・インフラとして実用化する最後の要となる組織です。社会における情報通信インフラの重要性が益々高まっている中で、私たちのネットワーク技術で世の中に貢献していくことに、大きな誇りとやりがいを感じております。我々の技術をいち早くお客様にお届けできるよう、これからも組織一丸となって研究開発を遂行していきたいと思います。
具体的な取り組みの一部はNIC Tech Talksの中で記事を書いていますし、これからも新しい情報をお届けしますので、ぜひ楽しみにしてください。
-ありがとうございました。
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