
NICの研究開発
キャリアグレードな品質・機能提供を実現するNTT内製OS: Beluganos
NIC 光トランスポートシステムプロジェクト
#ホワイトボックススイッチ#ネットワークOS#Beluganos
2024/7/19
はじめに
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)におけるネットワーク要件や要望される付加価値の多様化に向け、ネットワーク機能をソフトウェアにより内製化することで迅速なネットワークサービスの提供を目指しています。これを実現する技術であるホワイトボックススイッチ用ネットワークOS「Beluganos®」について、提供するネットワーク機能の概要について紹介します。
NTT 内製ネットワークOS(Beluganos ®)の概要
ホワイトボックススイッチとは、ハードウェアとソフトウェアが一体で提供される従来のスイッチ類と異なり、ハードウェアとソフトウェアが分離した形態で提供されるスイッチ/ネットワーク装置です。ホワイトボックスは「無地の箱、ノーブランドの箱」を意味し、ブランドに依存しないオープンなプラットフォームだと強調する名前です。

ホワイトボックスネットワーク装置には、メリットが大きく2つあります。1 つは、ハードとは独立してソフトを自由に選択して利用できる点で、例えば、ハードウェアが製造終了した場合にハードウェアを変更したとしてもネットワークOSに代表されるソフトウェアを継続使用でき、監視システムなどの周辺のシステムの変更が不要で、新ハードウェア導入に伴うマニュアル整備の削減が可能となります。もう1 つは逆に、ハードウェアをソフトウェアから独立して選択できるため、ソフトウェアのメーカにハードウェアが縛られることがなく例えばトランシーバ等の部品等が長期間にわたり低価格で購入できる点です。これらの特徴により、開発・導入・運用を含めた全体のトータルコストを低減します。
一方で、ホワイトボックスネットワーク装置のソフトウェアとして、市販のネットワークOS を利用する場合、2つの課題があります。1点目は、従来のネットワーク装置と同様に新機能の追加や問題発生時の改修がベンダマターとなり、利用者であるキャリアが必要なタイミングで利用できないという課題です。これは、ハードウェアと独立してソフトウェアを自由に選ぶことができるというホワイトボックス装置の利点を一部損なうものです。2点目は、運用機能の不足です。ホワイトボックスネットワーク装置では異なるベンダのハードウェアとソフトウェアを利用しますが、市販のネットワークOSは通常のスイッチやルータとして使うための必要機能は有しているものの、監視や経路可視化といったキャリアでの運用上必要となる運用機能の実装が必ずしも十分とは言えません。
このような課題を解決するため、NTT内製ネットワークOSとして、Beluganos®を開発しています。Beluganos®という名前やロゴは、ホワイトボックス(白)を連想できる白い動物の中で、ネットワークの海を力強く進んでいけるようにとシロイルカを意味する Beluga から命名されました。このBeluganos®により、機能追加や改修をNTT が必要なタイミングで実施できるようにするとともに、キャリアが必要とする運用監視機能の実装を実現する、というのがNTTの狙いです。以降では、実装している運用監視機能を紹介します。
データセンタ向け Beluganos ® 機能の紹介
近年のデータセンタ用ネットワークでは、IPファブリックを利用したCLOSネットワークトポロジ上で、汎用ルーティングプロトコルを用いてマルチパス構成のL3ネットワークを構築し、さらにオーバレイの仮想ネットワークをEVPN/VXLANプロトコルを用いて構成するのが一般的です。それによりL2フラットなネットワークを構築し、運用性を向上させ、VM(Virtual Machine)のモビリティの問題に対応できます。一方このようなオーバレイネットワークにおいては、以下2点が課題として挙げられます。
Beluganos®では、これらの課題解決のために、ネットワークOAM(Operations,Administration, Maintenance)機能を拡張し、「Loopback機能」「Pathtrace機能」「Continuity Check機能」を実装しました。

「Loopback 機能」はオーバレイトンネル上でのping を、「Pathtrace機能」はオーバレイトンネル上でのTraceroute を実行する機能で、どちらも運用者がアンダーレイリンクの構成を知らなくてもオーバレイトンネルの端点を指定するだけで運用監視できるようにするものです。特にPathtrace機能では、OAMフレームが通過する各ノードからの応答が順番に出力されるため、アンダーレイリンクがどのノードをどういう順番で通っているかの構成も確認できます。ECMPのようにパケット毎の情報(MACアドレスなど)によって複数リンクにロードバランスされる経路が途中に存在する場合でも、実パケットを模擬した情報をOAMパケットに付加して実パケットと同じリンクにロードバランスさせ、複数リンクのうちどこを通ったかの情報まで取得可能です。
「Continuity Check機能」は、オーバレイトンネルの端点を指定して、オーバレイトンネルの正常性を定期的に監視するパケットを双方向にやり取りし、このパケットが一定時間到着しなかった場合に障害として検知します。既存技術では、複数あるアンダーレイリンクすべてで独立に正常性監視機能を動作させる必要がありましたが、本機能では、オーバレイトンネルを指定することで、間のアンダーレイリンクすべてを監視することが可能となります。これにより、アンダーレイの構成によらず予期せぬ障害を高速に検知し、サービスへの影響を最小限に抑えます。
これらの機能を実装したBeluganos®をIPファブリック機器(ホワイトボックススイッチ)のOSとして使用することで、データセンタ用ネットワークをより効率的に運用できます。
Beluganos ®の今後
以上の機能はデータセンタ内ネットワーク運用機能として有用で、Beluganos®ではバージョン1.1の機能としてこれらを実装しています。BeluganosはNTTグループ内のデータセンタで活用されています。(https://www.bcm.co.jp/site/2024/01/ntt-com/2401-ntt-com-01-03-2.pdf)しかし、Beluganos®の適用領域はデータセンタに閉じたものでなく、APNの接続を含めた幅広いネットワークでのホワイトボックスネットワーク装置での動作をターゲットとしており、対応デバイスの拡大や、そのような領域で有用となる管理運用技術の実装も行っています。 Beluganosの今後の発展にご期待ください。
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