トランスポートイノベーション研究部

インターネットや高速モバイルサービスなどの普及などにより世界のネットワークトラフィックは急速に増加し続けてきました。この需要に応えるために本研究部では黎明期から光通信技術の研究開発を進め、時分割多重(TDM)伝送、波長分割多重(WDM)伝送、デジタルコヒーレント光伝送、光増幅中継伝送などを代表とする数多くの革新技術によって、光伝送システムの大容量化、長距離化、経済化を推し進めて、NTTのネットワークサービスの根幹を支え続けてきました。また、これらの研究成果は、日本国内だけでなく世界中のネットワークにも活用されており、情報通信社会の発展に貢献してきました。
今後もBeyond 5G、AI、IoT等のサービスの普及・発展により爆発的なトラフィック需要の増加が予想されています。IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想の、 低消費電力、高品質・大容量、低遅延を特長とするAll Photonics Network(APN)の実現に向け、世界最先端の光トランスポート基盤技術の研究と実用化の両面を推進し、将来の社会基盤の構築に貢献していきます。
現在、コア・メトロネットワークやデータセンタネットワークへの適用を目指し、デジタルコヒーレント光伝送などによる大容量光通信や光伝送路モニタリングの研究開発、およびユーザとオペレータに新たな価値をもたらすエクストリームレイヤ1ネットワークの研究開発を行っています。また、イノベイティブフォトニックネットワークセンタ(IPC)※と連携し、将来の大容量通信を可能にするスケーラブル光トランスポートネットワークの実現に向けた研究も推進しています。

 ※ イノベイティブフォトニックネットワークセンタ(IPC)のページはこちら

トランスポートネットワーク技術



トランスポートイノベーション研究部の代表的な4つの研究開発を紹介します。

デジタルコヒーレント光伝送による大容量光通信

デジタルコヒーレント光伝送技術

本研究部では、図1に示すように光伝送の技術革新を通して光通信システムの長距離・大容量化を進めてきました。現在はデジタルコヒーレント光伝送の研究開発を推進し、国際的な技術競争をリードすることで、さらなる大容量化を支えています。
図2のように、デジタルコヒーレント光伝送では光の波としての性質に着目し、光が波として持っている特性である振幅、位相、偏波に情報を乗せることで、大容量の情報伝送を実現しています。受信機では、デジタルサンプリングによって取得した波形データに対して高度なデジタル信号処理を施すことで光ファイバや送受信機内で発生する様々な波形歪みを補償し、高い伝送性能を実現します。
デジタルコヒーレント光伝送の基盤技術の研究のみならず、デジタルコヒーレント光伝送で必須であり伝送品質を決める重要な部品であるデジタル信号処理(Digital signal processor: DSP)LSIの開発・実用化を進めています。図3にNTTが研究開発したコヒーレントDSPの進展を示します。大容量、高性能、長距離を志向したテレコム向け、および低電力、高密度、短距離のデータコム向けの2種類のアプリケーションで発展しています。当初は容量100Gbps, CMOSプロセスノードは40nmでしたが、近年の開発では最大容量は1.2Tbps, CMOSプロセスノードは3nmまで進展し、現在は1.6Tbpsの研究開発に取り組んでいます。

デジコヒ1
図1 ネットワーク通信量と光伝送技術の発展
デジコヒ2
図2 デジタルコヒーレント光伝送技術の概要
デジコヒ3
図3 コヒーレントDSPの進展

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■報道発表

■主要文献

エンドツーエンド光信号パワーモニタリング技術

光ネットワークのデータ伝送容量を最大化するためには、光ファイバの損失などの伝送路の状態を全長にわたって監視して適切に光信号パワー等を制御する必要があります。従来では、光時間領域反射計(OTDR: Optical time domain reflectometer)などの専用測定器を使用した測定が可能ですが、この方法は多数の測定器を用いた全ノードでの測定が必要となり測定に時間とコストがかかります。本研究部では、光ネットワークの端点に設置されている光受信器に到達する光信号のみから、光ファイバ伝送路の全長にわたる光信号パワー分布を専用測定器を用いずにわずか数分で可視化するDigital Longitudinal Monitoring(DLM)技術を開発しました(図4)。これにより、光ファイバの異常損失等を簡易に位置特定できるため、迅速なネットワーク保守や伝送路の状態に最適な伝送容量の選択が可能になります。

DLM1
図4 受信信号解析のみによる光ファイバ伝送路中の光信号パワーのエンドツーエンド可視化

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■報道発表

■主要文献

エクストリームレイヤ1ネットワーク

遅延マネージドネットワーク技術

本研究部ではネットワークの低遅延化だけでなく、ユーザの手元の信号までの遅延を制御可能とするレイヤ1遅延マネジメント技術の検討を行っています。
遠隔拠点間での通信環境をユースケースに合わせて柔軟に変更・設定可能とし、遠隔合奏や遠隔eスポーツ大会開催といったリモートアクティビティがストレス無く実施可能となります。本技術は商用サービスとして東日本電信電話株式会社および西日本電信電話株式会社が提供する「APN IOWN1.0」およびNTTコミュニケーションズ株式会社が提供する「APN専用線プラン powered by IOWN」での端末装置にも搭載されております。 また、ユーザ近傍のUSBやHDMI等の信号にも対応する技術の研究開発も進めており、遠隔拠点間でのハイエンド双方向コミュニケーションも通信遅延を制御しながら違和感なく実施することも可能となります。

遅延マネージド1
図5 遅延マネージドネットワークによる
遅延制御イメージ
遅延マネージド2
図6 双方向コミュニケーションへの
技術適用イメージ

遅延マネージドネットワーク技術の概要

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■報道発表

■技術ジャーナル