フロンティアコミュニケーション研究部

NTTでは、次世代コミュニケーション基盤実現に向けて、IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想を推し進めています。このIOWNを支える情報通信基盤がAll Photonics Network(APN)です。ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を活用することで、従来のエレクトロニクス(電子)ベースでは実現不可能だった、低消費電力でありながら高品質・大容量・低遅延な伝送を実現可能にします。

フロンティアコミュニケーション研究部では、このAPNの高性能化に向けて、遠隔医療・AI金融など広域に分散するコンピューティングリソースを確定的な通信(遅延・帯域)でセキュアに結ぶ「確定的広域コンピューティングネットワーク基盤(IOWN SmartNIC)」や光ネットワークのプロアクティブかつ迅速な障害対処と光波長パスオンデマンド設定を実現可能な「光ネットワークデジタルツインによる光ネットワーク自動運用」の研究開発に取り組んでいます。
また、量子コンピュータの計算能力を指数関数的に向上させるコンピューティング基盤およびどのような計算機でも解読できないセキュアな通信基盤の実現にむけて、「量子通信」の研究開発に取り組んでいます。

フロンティアコミュニケーション研究部

確定的な広域コンピューティングネットワーク基盤

光電融合技術を活用したディスアグリゲーテッドコンピューティングの実現のため、広域に分散するコンピューティングリソース間のデータ通信を、確定的な遅延・帯域で接続する高速トランスポート技術を確立し、AI・金融などミッションクリティカルなサービスを実現します。

  • 確定的通信技術: IOWN APNを活用し一定時間内にデータ通信完了が必要なミッションクリティカルサービスを実現するため、メモリ間を低遅延で直接データ転送するRDMAをベースとし、送受信端末間の通信遅延・ジッタ・帯域の計測、管理により、アプリケーションが正確なデータ転送時間を把握でき、アプリケーションが要求するEnd-to-endでの確定的な遅延・帯域での通信を保証できる技術を実現します。
  • RDMAアクセラレーション技術(Sterna): 処理オーバーヘッドの少ないデータ通信方式であるRDMAの活用が広がっていますが、データセンタ間などの長距離通信では、信頼性処理の時間が増大し通信速度が劣化してしまいます。そこで、距離に依存せず高速通信を可能とするRDMAの信頼性処理技術を確立し、長距離大容量低遅延通信を実現します。
  • 耐量子セキュアトランスポート技術: IOWN APNのような100Gbpsを超える高速通信にも適用可能なセキュアな暗号化通信技術を確立します。
  • 高速メディアトランスポート技術: 放送事業者をターゲットとした高品質かつ大容量なメディアデータを超低遅延で転送する技術を確立します。
RDMAアクセラレーション技術(Sterna)

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耐量子セキュアトランスポート技術

近年、計算機の能力の発展により、暗号方式の危殆化リスクが高まっています。特に、量子計算機の実現により古典暗号方式が危殆化するため、耐量子計算機暗号(PQC)の導入が期待されていますが、長期的にはPQCにも危殆化のリスクがあります。そこで、長期的なリスクを低減し、IOWN APNのような100Gbpsを超える高速通信にも適用可能なセキュアな暗号化通信技術を確立します。

  • Elastic Key Control: PQCなどの暗号化方式の柔軟な切り替えや、複数の暗号方式の組み合わせができる技術です。危殆化した暗号化方式を迅速に安全な方式に切り替えることができ、また複数の暗号化方式を組み合わせることで単一の方式が危殆化しても安全性を保つことができます。
  • ディスアグリゲーション: 鍵交換、鍵管理、データ暗号化機能を分離し、様々なプラットフォーム(光トランスポンダ、SmartNICなど)で同様の安全性を提供できます。
耐量子セキュアトランスポート技術

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光ネットワークデジタルツイン

スマートフォンやAIの普及といった社会全体の通信需要に伴って、光ネットワーク(NW)の広域化・複雑化が進んでいます。光NWの設計や保守運用を自動化することで、日常的なデータ通信をより手軽に、誰もが利用しやすい価格で提供することができます。また、通信設備の障害リスクを予測し、プロアクティブに対処することで、信頼性の高い光通信サービスを実現できます。特に自然災害の多い日本では、災害時に通信設備が受ける被害を正確に見積もることが重要です。私たちのグループでは、光NWの設計・保守運用を高精度かつ全自動で実現するため、仮想空間上で光NWの状態を再現・シミュレーションし、実設備に反映する「光NWのデジタルツイン」の研究を進めています。これまで、データセンター間の大容量低遅延接続を実現するため、熟練者が2~3時間かけていた設計・設定を自動化し、数分で完了できるようにしました。また、災害による通信NWの障害リスクを解析するモデルを構築しました。国内外の研究機関との共同研究や海外テストベッドでの実験も積極的に行っています。

光ネットワークデジタルツイン1
光ネットワークデジタルツイン2
光ネットワークデジタルツイン3
光ネットワークデジタルツイン4

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AIクラスター向け光スイッチネットワーク(Optical Circuit Switching)

近年、AIや機械学習といった新しいアプリケーションが広く普及されつつありますが、大規模データの学習には、複数のサーバをネットワークで接続し、それらの間でデータ通信を行いながら効率的に学習することが一般的です。サーバ間を接続するネットワークは、これまでパケットスイッチが利用されてきましたが、これらはパケットを処理・交換するために電気的な処理を必要とするため、消費電力が高く、ネットワーク遅延も大きくなるという課題がありました。そこで、電気処理を必要とせず、光のままデータを交換することができる光スイッチをデータセンタ内へ導入し、低消費電力かつ低遅延なネットワークを構成するAIクラスター向け光スイッチネットワークの研究開発を行っています。

光スイッチネットワーク
光スイッチネットワーク2

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量子ネットワークを実現するための光子通信技術

近年の量子通信技術の進化は、情報通信の未来を根本から変える可能性を秘めています。私たちの研究グループは、高速で安全な量子ネットワークの実現を目指して、先進的な光子通信技術に取り組んでいます。ここでは、要素技術に関する最近の取り組みを紹介します。



1つ目は、時間相関単一光子計測(Time-Correlated Single Photon Counting, TCSPC)の研究です。量子状態を正確に読み取るには単一光子の検出が必須であり、TCSPC装置は、量子コンピューティングや量子暗号通信、量子センシングへの応用が期待されています。我々も、TCSPCは量子テレポーテーションに応用される重要技術として位置づけて研究を行っており、装置開発も行っています。(図1)

2つ目は、高速光子配送技術の研究です。本研究の一つの取り組みとして、シンボル間干渉を低減するために2台のマッハツェンダー変調器を使用し、短い光パルスを生成する方法を提案しました。提案技術を量子鍵配送(QKD)に応用し、100kmのファイバー間で、一般的個別攻撃を想定し鍵蒸留を行った場合の安全鍵レートとして668kを達成しました。この成果は、長距離量子通信の商用化に向けたステップであり、将来の量子ネットワーク構築に向けた基盤技術として期待されています。(図2)


このような研究を通じて、我々は量子通信技術の実用化とその応用範囲の拡大を目指しています。

開発したTCSPC装置
図1. 開発したTCSPC装置
提案した高速光子配送システムの構成
図2. 提案した高速光子配送システムの構成

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多者間量子もつれ通信システムの研究開発

多者間量子もつれ配送は、複数のユーザー間で量子もつれを共有する技術です。これにより、異なる地理的位置にある量子コンピュータが協力して複雑な問題を解決することができるようになり、計算能力の効率的な拡張が期待されています。ここでは、多者間量子もつれ通信システムの研究開発の取り組みを紹介します。



1つ目は、多者間量子もつれプロトコルのためのシステム構成の研究です。この研究では、時間ビンに絡み合った光子ペアを使用して、制御された条件下での多者間量子もつれを実現する実用的なフレームワークを提案しています。提案システムは、大容量の光子伝送、安定したリアルタイム動作、将来の拡張やスループットの増加に向けたスケーラビリティを考慮したコンポーネントと方法論が含まれています。(図1)

2つ目は、量子鍵配送(QKD)の安全性の研究です。この研究では、光ファイバーでの偏波の影響を受けにくいタイムビンを用い、かつサイドチャネル攻撃を回避する受動的な光学素子を用いたBB84プロトコルに着目しています。具体的には、受信側に実用的な遅延干渉計と閾値型検出器を用いるタイムビンBB84プロトコルについて、遅延干渉計由来で発生する「サテライトタイムビン」を鍵として使う場合に可能となる盗聴方法の存在を明らかにし(図2)、それを防ぐために必要な追加の操作を提案するともに、安全性を証明しました。(図2)


このような研究を通じて、量子通信の概念を現実の技術に変えて未来の生活を豊かにすることを目指しています。

提案した多者間量子もつれプロトコルのシステム構成
図1. 提案した多者間量子もつれプロトコルのシステム構成
タイムビンを用いた量子鍵配送の構成
図2. タイムビンを用いた量子鍵配送の構成
(bad-lateとbad-earlyが脆弱性として現れる)

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関連するリサーチ&アクティビティ