身体知技術

施策概要

私たちは,人が言語による理解では獲得できない非言語の知(技能=身体知)の抽出・共有をめざした研究を推進しており,スポーツにおける「身体知の獲得」の仕組みを明らかにし,遠隔地にいる人に対して他者が持つ身体知を獲得できるよう支援することを目的とした技術の確立に取り組んでいます.身体知の獲得とは,ある身体的な行為において,自身に生じる固有の体感である身体感覚を元に身体(筋肉や骨)の動かし方を修正,より適切で良いパフォーマンスを発揮できるようになることと考えています.しかし,身体感覚は行為を行ったその人自身の中に閉じており,主観的なその感覚を直接とらえ,他者に伝達することは困難です.

そこで私たちは,高い競技パフォーマンスを発揮する際のプロ競技者の身体感覚を身体活動と自然環境や道具の挙動(状態情報)をとらえ,それらを再現することで同様の体感を形成し,他者の身体知を獲得することができるのではないかと考え,それを実現するための抽出・共有技術の研究開発を行っています.

身体知の獲得イメージ図です。

取り組み紹介

抽出技術開発の一例として,ウインドサーフィンを題材に国内で競技を統括する団体と連携しプロ選手のトレーニングの中に入り込んでデータを取得し,そこから身体知を見出し・共有する技術を開発,トレーニングへ適用し選手のパフォーマンス向上に資するかの取り組みを日々実施しております.

身体知を見出す技術
身体知を見出す技術開発では,選手競技中の用具挙動の継続的なセンシング及び主観・俯瞰映像から,データ分析・インタビューによるパフォーマンスに直結している挙動の抽出を行っています.映像から関節を推定・比較し着眼点となる関節を抽出,着眼点の状態を定義して言語化して提示する技術(からだマップテーブル),視覚能力では捉えることが難しい微細な変化を,カメラ映像の微細な色/運動変化から解析・抽出し,強調・可視化することで提示する技術(Video Magnification)DNNモデルにより映像から動作の特徴量を抽出,理想の動作との比較から人の身体動作の質を定量評価する技術(Action Quality Assessment)により,パフォーマンス向上に資する身体知を見出す研究開発に取り組んでいます.


身体感覚を共有する技術
共有の技術開発では抽出した情報を基に,他者が持つ身体感覚の再現を試みるために,状態情報を再現するための身体感覚再生シミュレータを構築することで身体知の獲得を支援に向けた技術の具体化を始めています.身体感覚再生シミュレータでは,実際に競技者が行ったウインドサーフィン(道具)の挙動,風(自然環境),競技者が見ていた映像を連動して再生することで,他者が持つ固有の体感を形成できることをめざしています.これにより,本来は共有することが困難な,その人の中で閉ざされている主観的な体感を,他の人へ体験として共有することができるようになると考えています.現在は競技者自身やそのほかの競技者が実際に使用することで評価を行い,フィードバックを行っています.

競技者固有の体感の共有に向けた身体感覚再生シミュレータの写真です。

今後に向けて

これらの取り組みにより,今後ウインドサーフィン競技において最大60 km/h以上の速度を出せる身体知を獲得することを目標に,日々抽出・共有技術の改善に取り組んでいます.また、現在はウインドサーフィンを題材に抽出・共有技術の研究開発を進めていますが,将来的にはスポーツだけではなく身体的な動作を伴う技能が用いられる他分野への展開も視野に入れて,技術検討を進めていきます.

アクティビティ紹介

※文献リストはサイバネティックスのページ掲載しています.