多種多様な光ファイバを通信断なく分岐させる技術

2024年(令和6年)

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光通信技術の進展・普及により、私たちの生活の中では様々なIT端末の活用が拡大しています。それに伴い、今後は無線基地局やセンサなど多種多様な端末がネットワークへ接続されることが想定されます。これを実現するためには、多種多様な端末が迅速かつ容易に接続できる柔軟な光ネットワークが必要となります。しかし、これまでは通信を遮断せずにネットワーク構成を変更することができないため、新たな場所に端末を接続するためには新たな光ファイバケーブル等のネットワークを構築する工事が必要であり、設備構築コストやネットワーク開通まで時間を要しています。

世界的に広く使われている光ファイバは、多様な屈折率分布*1を有しており、それぞれ伝搬特性(実効屈折率*2)が異なります(図1)。これらの光ファイバを分岐させる従来技術においては、分岐元の光ファイバと分岐先の光ファイバとで同じ伝搬特性(実効屈折率)である必要がありました。そのため、分岐元の光ファイバの実効屈折率を現地で把握し、それに適した分岐用光ファイバを用意する必要がありました。ところが、実効屈折率の把握を行うためには、分岐元の光ファイバをサービス停止する必要があるため、現実的には困難な状況でした。以上のような背景から、通信中の光ファイバがどのような実効屈折率を有している場合であっても、分岐を可能とする技術の確立が課題となっていました(図1)。

多様な光ファイバの例と従来技術の課題

図1 多様な光ファイバの例と従来技術の課題

そこで、コア直径を変化させた構造を有する分岐用光ファイバの作製方法を開発しました(図2)。実効屈折率は、コア直径により変化するため、本構造の光ファイバは、多様な実効屈折率を有する光ファイバとして使うことが可能です(図3)。これを分岐用光ファイバとして使用することで、分岐元光ファイバの実効屈折率がどのような場合であっても、光ファイバを分岐することが可能となります。NTTは、この光ファイバを作製する技術、ならびにこれを用いた分岐を、世界で初めて実証しました。これにより分岐可能な光ファイバの範囲を従来と比べて大幅に拡大し、光アクセスネットワークで一般的に使用されている国際標準規格*3,4を満たすすべての光ファイバを分岐・合流することが可能となりました。

本技術を活用することで、どこからでも通信へ影響なく接続できる柔軟な光ネットワークを実現し、通信事業者の設備構築コスト削減や工期短縮による早期のネットワーク利用が可能になることが期待されます。今後は本技術の実フィールドにおける活用に向け、耐環境特性の評価や試作装置を用いたフィールド検証を進めていくことで、多様化するお客さまのニーズに対して迅速に対応可能な、どこからでも接続できる柔軟な光ネットワークの実現をめざします。

分岐用光ファイバのコア直径を変化させた構造

図2 分岐用光ファイバのコア直径を変化させた構造

実験結果

図3 実験結果

*1 屈折率分布
光ファイバのコアの直径およびコアとクラッドの屈折率。コアは光が伝わる部分であり、クラッドはコアの周囲にある光をコア内に閉じ込めるためにコアより屈折率をわずかに低くした部分

*2 実効屈折率
光ファイバのコアの直径およびコアとクラッドとの屈折率差で決定されるパラメータ

*3 ITU-T G.652
ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)で制定され、全世界で最も普及している汎用の光通信用シングルモードファイバの国際標準

*4 ITU-T G.657.A1
G.652と同等の特性を有しつつ、低曲げ損失特性(許容曲げ半径10 mm)を有する光通信用シングルモードファイバの国際標準

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